モスクワにてⅢ
サブストーリーです。
時は、デトロイト攻防戦、いや、殲滅戦の後である。
クレムリンでは、ジュガシヴィリ書記長以下の閣僚と軍人が、国策会議を開いていた。
「米連邦も、なかなかなことをするな」
話は、ジュガシヴィリ書記長のぼやきから始まるのが常である。速報で伝えられたデトロイトでの米軍の荒業には、政治家達とて、おののくものであった。
「はい。これで、戦力が全滅判定に近い日本軍からは、一方的な勝利の可能性が失われました。そして、我が国の影響力も大きくなります」
ジューコフ少将は言った。五大湖への攻撃は、日本軍にとっては乾坤一擲の作戦だったに違いない。動員された戦力は、最終的に日本軍の全戦力の40%程であった。その多くを失った日本軍は、必然的に北米に戦力を送らざるを得なくなるだろう。
そこでソビエトが日本の背後を突けば、日本は総崩れになるはずだ。
「わかっているだろうが、ルーズベルトが世界にのさばるのは避けなければならないぞ」
「はい。わかっています。今後の国策としては、東郷大将との連携を前提とすることに、変わりはありません」
ジュガシヴィリ書記長とジューコフ少将は、大のルーズベルト嫌いであった。ルーズベルト大統領は、支持率にしか興味がない男であったから、国民のことを本気で思っている二人からしたら、そんな男は不倶戴天そのものであった。
「ところで、最近我々と接触しているS.I.については、いかがしますか」
「それならば、黙殺でもしていろ。あんな奴等に力など貸すものか。日本政府と組むのはあり得ん」
ジュガシヴィリ書記長は、珍しく、怒りのこもった声で拒否を宣言した。
「閣下ならば、そう言うと思いましたよ」
ジューコフ少将は、気心の知れた仲間のように、書記長に声をかけた。善良な書記長の考えることなど、大体わかるのである。
「ですが、天皇に味方する気もないのですよね」
「そうだ」
「やはり、人類派、ですか」
「そうだ。奴等に世界の実権が渡るなど、ソビエト共和国と全人民は認めない」
「もちろんです」
ソビエト共和国は、常に、世界で唯一の、国民の為の国家であった。一党独裁による完璧な民主主義の実現こそが、ソビエト共和党の存在理由である。
彼らの会議はまだ続く。




