悪化する戦況
展開が早い。
崩壊暦214年7月27日10:32
「こちら第三大隊。増援を求む。屍人が多い。できれば、戦闘攻撃機を回されたし。送れ」
現在、帝国軍はデトロイト外縁部にて屍人に対する防衛戦を展開している。デトロイトの八方に半円形の陣地を置き、意図的に爆音を立て、煙を上げることで屍人を誘引することで、効率的に屍人を狩るのが帝国軍の基本戦略である。
陣地には、歩兵による機銃陣地と、その後ろに戦車を中心とした部隊が構え、手前の後方に同時に火力を投射している。これならば、屍人など脅威でないと思われた。
しかし、事態はそう簡単にはいかなかった。
屍人、腐った緑と茶色の肌を持つ化け物、は、全く愚鈍ではなかったのだ。奴等は、帝国軍の陣地を見つけるやいなや、奇声を放ちながら突っ込んできている。
それは、独ソ戦における旧ソ連の人海戦術のようである。
砲撃によって屍人の攻勢は十分に止められると想定されていたが、既に、全力を出しきってもなお屍人に押されている。
機銃の弾は次々と屍人を凪ぎはらっているが、それ以上に屍人が押し寄せる。
デトロイトの南西を担当する第三大隊は、特に屍人が集中した場所の担当であった。
「くそっ、奴等何匹いるんだ!」「戦車隊、三時方向に火力を集中!」「……死なないか。とどめをさせ!」
戦車や砲兵は、屍人を吹き飛ばすことには成功している。しかし、それでは屍人は死なない。
土煙の中から、屍人は再び起き上がる。手足を吹き飛ばされようと、体が欠けていても、屍人は動じない。痛みを感じないのだ。
その屍人を、帝国軍の銃弾が貫く。だが、屍人は硬い。脳を撃ち抜かねば、まだ生きている。体が欠損し、よろけながらも、屍人は歩み寄ってくる。
その時、突如、第三大隊の眼前の大地が燃え上がった。
「おお、増援だ!」「やっちまえ!」
第三大隊の前に現れたのは、数十の戦闘攻撃機である。戦闘攻撃機は、屍人に無数の焼夷弾を落とし、それを幾度も繰り返す。
屍人は、業火に包まれる。屍人の皮膚は、原理的には樹皮に似ている。それは、よく燃え上がる。
「よし!撃て!」
機銃と戦車が一斉に火を噴く。屍人は凪ぎ払われ、倒れた。
これで、ひとまずはマシな状況になっただろう。そして、戦闘攻撃機は、次の部隊を救うため飛び去っていった。
しかし、空からまた違うものが訪れた。
「おい、あれを見ろ!」
ある兵士は、空を指差す。その先には、微かに黒い点が見える。それは、飛行戦艦であった。
「味方か?」
飛行戦艦群は、徐々にこちらに迫ってきている。徐々にその姿は鮮明になっていく。そして、兵士達は、ついにその正体を見た。
「米軍だ!」
飛行戦艦には、わざとらしく星条旗が掲げられ、デトロイトの中心部へと向かっていく。
「おい、不味いんじゃないか」
「ああ、艦隊には電磁波攻撃があったと言うし」
「だが、ここはアメリカだぞ。流石に撃てないんじゃ……」
「うわっ、奴等撃ちやがった!」
既に防衛線の向こうに行っていた米艦隊は、躊躇なく砲撃を始める。ここからは見えないが、間違いなく連合艦隊を狙っているだろう。ここから見えるだけでも、幾つかの建物が崩れ落ちているのか、粉塵が空に舞い上がっている。
そして、同時に、地上からも砲撃が始まる。その流れ弾は、防衛線の前方に落ちていく。そして、幾らかは米艦隊に命中しているようだ。
米艦隊からも、煙が上がっている。
「おい、あれに見とれてる場合じゃないぞ!」「ああ、まだ屍人は来ている!」「撃て!」
米艦隊が来ようが来まいが、屍人は減ることはない。再び、帝国は銃を前に構える。
しかし、恐らくは、戦闘攻撃機は向こうに持っていかれた。万が一先程のような事態になった場合、援護は期待できそうもない。
地上にとっても、死に物狂いの戦いである。
だが、何故だが屍人の圧力は減りつつある。この調子ならば、防衛線は維持できるだろう。
「あらかじめ、屍人が集まっていた?」「そんなことはどうでもいいだろ。今はここが守れれば十分だ」
第三大隊は、引き続き、銃撃と砲撃を行う。
だが、そこに新たなイレギュラーが現れた。
「おい、あれは、人間、なのか?」
屍人の群れの中縫って、こちらに向かうでもなく走り抜ける影が見えた。その姿は、少女のように見える。
その影は、近くに転がっていた車に隠れた。
「おーい!誰かいるのか!」
兵士は影に呼び掛ける。
そして、影は車からひょっこりと顔を出してきた。どうやら、言葉は通じるらしい。
「第二小隊、念のため、あの影を見てこい」
「了解であります」
中隊長の号令で、兵士達は陣地を飛び出す。戦車はその前の屍人を吹き飛ばし、第二小隊の為に道を作り出す。
第二小隊は、屍人を凪ぎながら、目標に向かって駆け抜ける。
「おい!君!大丈夫か!」
車にたどり着いた兵士が、影に呼び掛ける。影は、明らかに人間、それも少女である。




