悪質な罠
最近、新しい小説を書き始めました。なお、終末後記の連載が滞ることはないようにするので、ご安心下さい。要らない報告でした。
そして、およそ3日後のことである。
「閣下、この都市の地質に異常が認められます。恐らくは、鉄以上の密度の物質が埋まっています」
そう言うのは、大和である。
人口に比して異様に狭い市街地及び工業地帯と、それを取り囲む広大な耕作地。
その構成の所以を探るべく、デトロイトを調査したデータを合わせた結果、意外にも、地盤の構造異常がはじき出された。
近衛大佐、東郷大将ともに予期しなかった結果である。
「地下に何かが埋まっているのでしょうか?」
「その可能性は否定できんが、例え地下から米兵が湧いて出てきたとしても、別段の問題はないだろう。まあ、昔の地下施設か何かだろう。だが……」
東郷大将は、疑念を抱えたまま、大和で情勢を見守っていた。米軍は完全に消えてしまったため、その理由を問い詰めることもできない。
その時であった。突如、大和に小さな振動が走る。
「地震か?」
「違います。この揺れは、何らかの爆発による船体の揺れですです」
大和にとっては、この揺れが地震か否かの判断は容易だ。そして、この揺れは、何らかの爆発であると判断した。
「全艦、爆心地を探せ。もし、テロだったとしたら、その犯人も捕らえよ」
東郷大将は、落ち着き払って指示をする。飛行戦艦の着陸姿勢は、安定しているとは言い難いものであるが、仮にも戦艦である大和が揺れる程の爆発ならば、それは相当近くのものであると思われた。
しかし、その静謐もすぐに壊される。
「か、閣下!デトロイトの防壁が、破壊されたとのことです!」
「何、防壁だと?」
艦内に舞い込んだのは、唐突な知らせである。報告によれば、デトロイト外縁部の更に外を取り囲み、人類の領域を守護する防壁が崩れ去ったらしい。
「そっ、それが、デトロイト周囲の全防壁が、一斉に倒壊したとのことで、地上部隊が屍人と交戦中とのことです」
「な、全てなのか?!確実に確認せよ!」
艦内の空気は、一気に張り詰める。艦橋には、無数の報告が押し寄せる。艦橋は、無線の音と話し声で一気に喧騒に包まれる。だが、それらは全て同じ結論を示した。
「デトロイトは、今や、外の世界に晒されています!外壁は完全に消失しました!」
「なっ。そんなことが……米帝めが」
さしもの東郷大将も、こればかりには狼狽している。都市を屍人から守る防壁が消失したのだ。それは、屍人が都市に雪崩れ込んでくることを意味する。
「全軍に告ぐ!直ちに近場の空港まで撤退せよ!」
「閣下、それでは、無辜のデトロイト市民を見捨てるのですか?」
「ああ、仕方ないだろう。帝国軍には、アメリカ市民を助ける義理はない」
「…そうですか。了解しました」
帝国軍は、デトロイトから早々に撤退する気である。当然ながら、アメリカ人を守るのは、アメリカ軍の仕事である。彼らの所業は彼らの責任である。
帝国軍は、都市の各所から空港に集まっていく。
しかし、更なる罠が帝国軍を襲った。
「おいっ!どうした!」
突然、大和、いや、連合艦隊から光が消えたのだ。その状況は、ロッキー山脈で連合艦隊が米艦隊に仕掛けたものとよく似ている。全ての電子機器が静止した。
「まさか、電磁波爆弾の類いか?ひとまず、予備電源を付けろ」
電磁波爆弾への対策は、ある程度は連合艦隊にも施してある。そもそも、電磁波爆弾が効かないような対策はしたはずだが、それは無意味であった。
次の一手として、完全に電子的に防御された予備電源が稼働する。
出力は小さいが、通信などは可能である。
「状況を報告せよ」
すぐに灯りが戻った大和の艦橋で、東郷大将は命じる。
「手酷くやられてます。恐らく、暫くは離陸不可能です」
「どのくらいで治るんだ?」
「短くとも、およそ半日はかかります」
「半日、か。それまでは、屍人を迎え撃つしかないか。仕方ないな。全軍に、屍人の迎撃を命じよ」
ひとまず、艦隊が復旧するまでの間は、屍人を食い止めるしかないだろう。だが、それくらいは、帝国軍にとっては簡単な仕事である。
まさか、屍人に押し負けることなどあるまい。




