神崎の作戦
崩壊暦213年12月10日20:14
時を同じくして、大和も様子見を決め込んでいる。いや、そうするしかないのだ。
東條中佐の作戦では、襲来した敵航空戦力をあの奇策によって漸減することを目的とするが、その前提は敵が襲ってくることである。
正面から襲い掛かっては不利は必至の第一艦隊としては、敵の行動を待つのみである。
両軍が更ににらみ合いを続けること、およそ二時間。
大和艦内では、再び、今後の方策が話合われている。
「私の部隊で敵へのハラスメント攻撃を行い、敵を罠に引きずり込みましょう。私の部隊なら、必ずや成し遂げます」
そう言うのは、飛行空母「鳳翔」の飛行隊長であり、東郷大将直属の佐官の中では紅一点である神崎中佐である。
また彼女は、艦隊で一番押しが強い佐官でもある。まさに「原始、女性は太陽であった」を体現する存在だ。
神崎案では、戦闘攻撃機部隊は、敵の対空防御圏の間際で旋回しながら、対艦ミサイルを連続して放ち、敵を挑発した後、艦隊に逃げ帰ってくる。
そして、追ってきた敵編隊を東條案でもって漸減する。
「確かに、中佐の案は道理ではある。敵が我々の予想通りの馬鹿どもだったらだがな。敵は明らかに優位であるにも関わらず、襲ってこない。完全とは思わないが、ある程度は東條中佐の案が読まれているだろう。燃料と弾薬の無駄になる公算が高い」
「それは…」
神崎中佐はいかにも悔しそうな顔をしている。なんとも感情がわかりやすい人だ。
「では、敵にいくつか偽情報を流し、誘引するのはどうでしょうか。」
と、東條中佐が口を開く。
「と、言うと?」
神崎中佐がすかさず尋ねる。相当気になっているようだ。
「まず、我々は、帝国政府の命令で即時攻撃を行わざるを得ないということにします。その後、攻撃隊に出撃してもらいますが、神崎中佐の案をここで実行します。
これで騙されてくれればよいのですが、そうでない場合、即ち、敵が追ってこない場合には、戦闘攻撃機部隊の増援がすぐ来るから、神崎中佐の部隊は一度艦隊で待機し、合流した後に再度の攻撃を行うという情報を流します。
また、我が艦隊は航空戦力の不利を補うため、砲撃戦による事態の打破を図っているというのも同時に流します。
どちらを信じたとしても、敵は襲ってきてくれるでしょう」
「なるほど。一つ付け足すとすれば、いや引くか。最後に矛盾する情報を二つ流すというものだが。
単発の偽情報を流すのなら良い策だが、この流れでは逆に疑いをましてしまう。どちらかは止めた方が良いだろう」
「…ならば、砲撃戦の件はやめておきましょう」
「結構」
作戦は固まったようだ。
「それで、神崎中佐、やってくれるか?」
やってくれるだろうとは思いつつ、東條中佐は一応の確認をする。
「その任務、是非ともやらせて頂きたい。大将閣下、御裁可を!」
神崎中佐は嬉々として大将に許可を求める。
「結構。許可しよう。艦隊に作戦を通達し、直ちに作戦を開始せよ」
「了解!」
神崎中佐は格納庫へと駆けて行った。儀礼を殴り捨てた暴挙ではあるが、まあいいだろう。東郷大将も大して気にはしなかった。
遂に両軍の戦端は開かれる。
神崎中佐は、女性ということで、何か男臭くなるので、名前の元ネタはありません。