乗り込み攻撃Ⅰ
この作戦、結構な長丁場になります。
崩壊暦214年7月23日09:13
「敵を確認しました」
「ああ。全艦、アルテミスを中心に、戦闘に備えよ」
チャールズ元帥率いる米軍中央艦隊は、数日前のスペシガン攻略に失敗し、現在、ヒューロン湖上空に新たな防衛線を敷いている。
もっとも、スペシガンでは敵の予想外な攻撃に対して、たいして被害が出ないうちに撤退したため、別段不利になった訳ではない。
確かに、敵の高射砲にはそれなりに撃たれたが、被害は軽微なものであった。
少なくとも、敵がアルテミス以上の兵器を持っていることはないだろう。
さて、追い返され追い返すを見事に繰り返した日本艦隊であるが、またしても、ヒューロン湖に攻め入って来たようだ。
しかし、状況は前のヒューロン湖攻防戦の焼き直しそのものであり、アルテミスをもってすれば、撃退は可能だと思われる。
「ハーバー中将、敵の意図は何だと思う?」
「少なくとも、敵は同じ轍を踏む愚か者でないのは、これまでの戦闘から明らかです。何らかの策を仕掛けてくるでしょうが、今のところ、私には判断しかねます」
「そうか」
敵の行動からは、今のところ、意図を感じ取ることはできない。チャールズ元帥とハーバー中将はその作戦を図りかねていた。
「敵の後方の輸送艦が多いように見えるのは、何らかの作戦の一環かな?」
「そうかもしれません」
唯一、前回と違うのは、敵の後ろに付いている輸送艦が多いことである。通常は、燃料、弾薬、陸戦部隊などを運ぶものであるが、それにしては数が多い。
「あの積み荷には、細心の注意を払うべきでしょう」
「ああ、そうしよう。何か動きがあれば、アルテミスで撃ち落とせばいいだろう」
例え、あの積み荷が敵の新たな兵器であったとしても、このときは、アルテミスならば、何であろうと即座に破壊できると、米艦隊の誰もが思っていた。
「一応、ニミッツ大将に状況を確認したい。繋いでくれ」
「了解しました」
アルテミスが加わっても、湖上要塞の指揮は、ニミッツ大将に任されている。彼ならば小さな異変にでも気づけるだろう。
「はい、こちらニミッツ大将であります」
「ニミッツ大将、早速だが、湖上要塞の方で、何らかの異常は検知しているか?」
「いえ、特に異常はなく航行しておりますが」
湖上の方でも特に異常はないらしい。新型の艦爆機雷などである可能性も考えられたが、それも無さそうである。
「そうか、ならいい。引き続き、警戒を怠らないように」
「勿論です。では、失礼します」
「ああ」
その後、暫く意見を募ったが、結論は出なかった。そうして、米艦隊が敵の作戦について考えあぐねている中、ついに敵が動き出す。
「敵、下降しています。それも、全艦隊が、です」
「下降だと。まさか、あの積み荷は、湖に沈める類いのものなのか?」
唐突に、日本艦隊は、その全艦の高度を下げ始めた。その一糸乱れぬ動きは、止まった日本艦隊に湖が近づくようである。
「厄介な。一応だが、ケラウノスで妨害してくれ」
既にケラウノスは米艦隊のあらゆる艦に搭載されている。ケラウノスは米艦隊から飛び立ち、日本艦隊に飛来する。
しかし、陣形を保った日本艦隊は、その全面に炎の壁を作り、ケラウノスを撃墜していく。やはり効果は皆無のようだ。
「閣下、弾の無駄のようです。この辺りで切り上げるべきでしょう」
「そうだな。敵の動静に注意させるしかできないか」
無駄を悟った両名は攻撃を中断させた。そして、遂に敵は湖面にまで下がってきた。
件の積み荷は日本艦隊に守られつつ湖に投下されている。不気味だ。
「何をしようというんだ」
そして、チャールズ元帥が息を呑んでそれを観察していたその時、遂にその正体は明らかとなった。
「駆逐艦です!敵は、水上駆逐艦を投下しています!」
「駆逐艦?まさか、古代のような接舷攻撃でもしようというのか?」
「敵、急速に接近しています!」「艦隊は上昇、散開しています」
駆逐艦を投下すると、敵はまっしぐらに米艦隊に突進してきた。チャールズ元帥は、その意図は湖上要塞に乗り込むことだと、即座に理解した。
「全艦!あの駆逐艦を沈めろ!」
今回の日本軍は一筋縄ではいかないようである。




