流星二号完遂の為に
スペシガンに迫った米艦隊は撃退された。
もっとも、これは米艦隊を撃滅したからではない。敵が撤退した理由は、恐らくは損害を出したくなかったからだろう。天羽々斬を使いだした途端に、まだ被害が出る前に後退を始めたのが、その証拠だ。
さて、今回の戦いでは勝利をつかんだと言えるだろうが、これは本来の目的ではない。むしろ、失敗のリカバリーがかろうじてできたということに過ぎない。
あくまで、連合艦隊の目標は、デトロイト、また、その先の都市の攻略である。
しかし、目前のヒューロン湖には敵の電磁加速砲アルテミスが待ち構えており、これを通常の方法で突破するのは無謀というものである。
たとえアルテミスを破ったとしても、次の攻勢に、連合艦隊は耐えられまい。
そこで、東郷大将と東條中佐は、ある策を立て、それへの協力を仰ぐため、本国へと通信を試みている。
「鈴木中将は、これを認めてくださるでしょうか」
東條中佐は、些か不安なようだ。この作戦は、それ相応のリスクと共にあるからである。
「心配には及ばんよ。鈴木中将は、私の数少ない知己の一人だ。多分、受諾してくれるだろう」
鈴木中将と東郷大将は、軍大学での同期であり、帝国軍でも指折りの蜜月関係、もしくは癒着、を築く仲であるのだ。さらに言えば、東郷大将の方が階級が上である。
「それでは、繋いでくれ」
「了解しました」
数分の間をおいて、メインスクリーンに出たのは、東郷大将と同じくらいの年配の将軍である。ただ、印象としては、東郷大将より老け込んでいるように見える。
「よう、鈴木中将」
「ふむ、もうお前は上官なんだよな、東郷大将閣下?」
挨拶からして、まずおかしい二人だ。
階級では、中将と大将である。参謀総長の山本中将は、例外的に大将たる東郷大将に対し命令権を持つが、基本的には、上のものに従うべきだ。
だが、鈴木中将は、早速、大将閣下を「お前」呼びである。まあ、両者がそれでいいなら、いいのだろう。
「で、今度はどんな用事なんだ。まあ、海軍に関連する話だろうが」
鈴木中将は、海軍の将軍であり、しかも、海の方の帝国太平洋艦隊総司令官である。
この時代、飛行戦艦の台頭によって、海軍の価値というものは低下している。もっとも今に始まったことではないのだが。海軍は、シーレーンの防衛が主な任務なわけだが、その任務の多くが飛行戦艦、つまり陸軍でまかなえるのだ。
現状では、高速船の警護や、対潜警戒、海賊などの非対称勢力との戦いが海軍の任務である。
「単刀直入にいこう。中将が引きる艦隊の中からから、一個戦隊ほどを貸して欲しい。もちろん、安全は保障しない」
「か、貸す?連合艦隊は、あんな大陸の真ん中にいるじゃないか。どうあがいても、五大湖までは行けないぞ」
「来てもらう必要はない。空輸するんだ」
「空輸?確かに、小型艦ならば持ち上げられなくもないだろうが、戦艦は無理だぞ」
東郷大将が言い出した、艦隊空輸。連合艦隊の艦船ならば、戦艦で小型艦くらいは運べるだろう。恐らくは、甲板に簡易ドッグを作って載せ、その後五大湖に落とせば、運ぶことは可能だ。
「駆逐艦があれば十分だ」
「しかし、駆逐艦で何をしようというんだ?相手は、敵の湖上要塞なのだろう」
確かに、駆逐艦の火力如きでは、湖上要塞に傷をつけるくらいしかできない。はっきり言って、蟷螂の斧である。
「別に、湖上要塞を沈めたい訳ではない。むしろ、無傷のまま奪い取ってやろうと思うのだが、どうだね」
「ほうほう。つまり、湖上要塞を占領しようというんだな。その部隊を運ぶのに水上艦船が欲しいと」
「その通りだ。察しがいいな」
東郷大将の計画は、湖上要塞の盲点である水上から、地上部隊を湖上要塞に乗り込ませ、占領してしまおうというものである。成功の暁には、あのアルテミスが、日本軍の矛となってくれるだろう。
この策は、実行に移す価値がある作戦に違いないと思われた。
「なるほど、承知した。私の艦隊から、『よいづき』以下の第二駆逐戦隊と、『しらぬい』以下の第三駆逐戦隊をやろうじゃないか」
「ありがとう。必ずや、勝利してみせよう。詳細は、追って伝える」
「了解だ。武運があらんことを」
「そちらも、壮健なれ」
通信は終了した。これで、ヒューロン湖攻略の布石は整った。




