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終末後記  作者: Takahiro
その後の世界
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ケープタウン郊外にて

崩壊暦217年12月13日14:24


アフリカ帝国は、ヘス女帝を君主と仰ぎながらも、実際はほぽ独立国として振る舞っている。


また、ハミルカル首相の何故かはわからないカリスマ性によって、国は平和に纏まっている。


さて、ここは都市の外の荒れ地、旧文明の道路の残滓が僅かに残る土地である。


アフリカ帝国軍の将兵は、ここで都市を結ぶ道路をひたすらに敷設し続けていた。空路より陸路の方が輸送効率がいいのは言うまでもないだろう。


「ほら、閣下、ちゃんと働いて下さい」


神埼中佐は東條少将を叱りつけた。


「何で私が中佐に怒られなければならないんだ?」


「現場監督をしてくれと頼んだのは閣下でしょう?私はその職権を適切に運用しているだけです」


「はあ、わかったわかった」


東條少将はやれやれと首を振りながらも、目の前に転がる屍人の死体を払いのけた。 


道路を敷設するにあたって、最初の難関は、そこら中に色々なものが散らかっていることである。


死体から飛行戦艦の残骸まで、兎に角ありとあらゆるものが散らばっている。それを片っ端から片付けるのが兵士の主たる任務である。


道路を直接伸ばしのは、その分野の業者に国が委託していた。


「しかし、こう見ると、案外上手くいったな」 


「何がです?」


「いや、戦争がなくなれば多くの兵士が職を失うと思っていたのだが、こういう公共事業があれば、まだまだ雇用はあるなと思っただけだ」


「なるほど。確かに、失業率はほぼ前から変わっていません」


戦争の仕事はなくなったが、今度は別の働き口か出来た。東條少将が心配していた失業者が街に溢れるという事態は、暫くは起こらなそうである。


「私は結構不満ですけど」


「何故だ?」


「やっぱり私は航空艦隊でも率いていないと落ち着きません。私みたいな人は、それなりにいると思いますが」


「いや、そんなことはない。中佐だけだ」


彼女は好戦的過ぎるのだ。普通、軍人は戦争の起こらないことを望む。


「そうですか?」


「そうだ」


「まあ、不満ではありますが、耐えられない程ではありません。新しい楽しみも見つけましたし」


「何だ?それは」


「こうやって職権乱用して自分より上の人を叱ることです」


「理解出来ない」


神埼中佐が笑いながら恐ろしいことを語るのを、東條少将は遠い目で見ていた。部下として持つには相当に優秀な部類だが、上司としては会いたくない。


「では、まて会いましょう」


「ああ。またな」


神埼中佐はどこかに歩き去っていった。


すると今度はまた別のがやって来た。


「東條少将、お元気ですか?」


「元気ですが、って、あなたは…」


目の前にいたのは、黒い外套を纏った白い髪の屍人の少女、アメである。


「ど、どうしてこんなところに?」


アメは北米かオーストラリアにいる筈なのだが。


「ここ、アフリカにいた屍人の中で、まだ我々の土地に来ていない者がいないか、捜索に来てまして、たまたまそこで少将見かけただけです」


「ああ、なるほど」


どうも屍人の中にはアメの率いるネットワークに入れていにない個体があるらしい。


そして、そういうのが人類の領域に紛れ込んでいた場合、当人にも人類と屍人の関係にも悪影響を及ぼす。


「お姫様の力で、こう、テレパシーみたいなことは出来ないのですか?」


「そんな便利な力じゃないんです。私の力は屍人の脳に干渉するものなので、脳を侵されていない者には何の意味もないんです」


「大変ですね」


「ええ。大変です」


アメは本当に面倒くさそうにため息を吐いた。それはおよそ少女のものではなかったが。


「ところで少将、作業は順調ですか?」


「ええ。兵士は沢山いますので。ただ、思っていたより旧文明の残骸が邪魔ですね」


「なるほど。旧文明、ですか」


アメは悲しそうな目で廃墟に視線を移した。


「何か、あるのですか?」


「私は、ここら辺の廃墟が実際に使われていた時代を見て来ました。あの時の建物がこうも朽ち果てているとは、時間が流れたのだなと思います」


「そうでしたね。私はこの世界に生まれた身ですから、何とも」


「あなた方の方が、我々より幸せです。人生は、短い方がいい。その方が、何かを残そうと、何かを成そうと必死に足掻けますから」


「そうですかね?長い人生の方が色々出来ると思いますけど」


「結局、長過ぎる時は人を怠惰にします。私も、文明の崩壊から200年、何も残せていませんから」


「難しいですね、人は」


「難しい、そうですね。人は理解出来ませんよ。では、お話はこの辺で、さようなら」


アメは去っていった。


しかし東條少将は、辺りの残骸がかつて人の生きた証拠なのだと思うと、何とも言えない気持ちになるのであった。

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