結末
さてその後、南米連邦の職員が村中の死体を片付け、血なども清掃した。
そして会議は再び再開される。
「ふう。これで、我々の距離は多少は近づいきましたね」
アメは言った。
「人と屍人が共に生きられる世界になって欲しいものです」
ヘス女帝は言った。
「ええ。どちらも争いは望んでいない筈」
「後世にもそれを受け継がねばなりませんね」
「ええ。まあ私達はまだまだ何百年かは生きるつもりですが」
そういう問題もある。
屍人は今のところ生物学的な不死、つまり不老の体を獲得している。どんなに医学が進歩しても寿命からのがれられない人類とは決定的な違いが存在するのだ。
それが人と屍人の引き裂く原因になるやもしれない。
だが、こればかりはどうしようもない。人間と屍人が互いになるべく不干渉で生きていくくらいしかないだろう。
まあこの問題が出てくるのはまだ何十年か先だ。今すぐにどうこうするものではない。
「では、そろそろ世界の開放を始めましょうか」
アメは告げた。
「世界の開放とは、そう簡単に出来るものなのですか?」
東條少将は尋ねた。そんな大層なことがこうも軽くあしらわれているのは、普通に考えておかしい。
「ええ。簡単なことです。そうですね…百聞は一見に如かずと言いますし、まずはサンパウロの周りの屍人を殲滅しましょう」
と言うと、アメは少しの間黙り込んだ。本当に数秒のことだったが。
「誰か、サンパウロの外の映像とかはないですか?」
「それならば、我々にお任せを」
ヴァルガス大統領は言った。まあ自国の都市ならば、外壁の外を監視するシステムくらいあるのだろう。
「ここに映像を流しましょう。暫くお待ちを」
ヴァルガス大統領の部下が少しデバイスを弄ると、すぐにサンパウロの外と思われる荒野の映像が議場のメインスクリーンに映された。
そして、そこに映っていた光景に、一同は驚愕することとなる。
「屍人が、死んでいる…」
見渡す限り一面で、屍人が地面に倒れ伏せ、ぴくりともうごかなくなっていた。死体の数は数千、数万にも上っている。
「しかし、これでは死体の処理が難儀でしょうな」
アデナウアー大統領は言った。
「ええ。それだけは、まあ頑張って下さい」
流石のアメとて死体の消すことは出来ない。よって、今後世界中に数十億の屍人の死体が散乱することとなるだろう。それだけは気合いで乗り切るしかない。
「当面は死体清掃の仕事が人類の主要産業になりそうです」
「歴史に名を刻めるじゃないですか」
「そんな微妙な話題で名を残したくはありませんが」
この調子ならば地表の屍人の殲滅も確かに可能なのだろう。この光景は新たな時代の到来を予想させた。
「さて、これで会議はお開きでいいですか?取り敢えずは、これ以上の用はありませんから」
そうして講和会議は閉幕した。
「ゲッベルス上級大将閣下、お元気ですか?」
東條少将は病床に臥すゲッベルス上級大将のもとを訪れた。
「ああ。元気だ」
「それは良かった。それで、ですが、先程、講和会議が終わりました。その報告に」
「別にわざわざ少将閣下が来なくてもいいじゃないか」
「それもそうですが、まあ、私も暇ですので」
東條少将はゲッベルス上級大将に会議の一部始終を報告した。
「なるほど。本当に、世界は変わろうとしているのだな」
「ええ。暫くはどの国も戦争などしていられませんね」
まずは地表の回収だ。それだけで国力は数倍に膨らむだろう。戦争よりも効率がいい。
「ああ。軍人にとってはつまらん世になるな」
「誰も死ななくて済むのなら、それでいいではありませんか」
「そうか。私は退屈の方が嫌いだが、まあ、大半の者はそう応えるだろう」
「くれぐれもクーデターを起こしたりしないで下さいね」
「私もそんな戦闘狂じゃない。安心してくれ」
一番戦争がしたくないのは軍人である。ゲッベルス上級大将はそうでもないが、自分から戦争を起こそう等とは思わないだろう。
「まあ結局は政治ですか」
「ああ。マトモな君主に政治をやってもらいたいものだな」
「この状況で戦争を起こそうとするバカがいるとは思いたくありませんが」
「そんなのはルーズベルト大統領くらいだ」
「ですね」
戦争を起こすのはいつも文民だ。シビリアン・コントロールというのは戦争を起こしやすくする為の仕組みに他ならない。それはアメリカ連邦が証明している。
だが、今回の大戦を引き起こした当のアメリカ連邦は消滅し、アラブ帝国もすっかり意気消沈している。
ヘス女帝、ジュガシヴィリ書記長、日本の天皇、現在の列強を率いる指導者はいずれも聡明だ。利のない戦争は起こらないだろう。
「平和な世界となれば、ある程度の軍人は職を失うでしょうね」
「そういうのの職場を見つけてやるのも我々の役目だ」
「確かに。これからは事務仕事が増えそうです」
そして東條少将とゲッベルス上級大将は朗らかな笑みを浮かべた。
作品のコンセプトが消滅しましたね、残すはあと僅かです。




