表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末後記  作者: Takahiro
3-4_講和会議
712/720

首謀者

「という訳で、どうですか?」


ヘイムダルは不敵な笑みを浮かべた。


「まあいいでしょう。その点については、今後は国家としての感覚を忘れないで頂きたい」


ジュガシヴィリ書記長は取り敢えず納得したようである。また、恐らくここで一番の堅物である彼がそれを認めたことによって、この点については、諸国の元首らも理解を示した。


「それと、もう一つ、落とし前をつけねばならないことがありましょう」


ユースフ元帥は言った。


「と言うと?」


「今回の襲撃の首謀者、それを処分せねばなりません。その者の身柄はあなた方が預かっているそうで」


「なるほど。その言い分はもっともなことです。あの者をここに」


今回の襲撃は、全人類に対する犯罪である。この処遇をアメらの屍人に委任する訳にはいかないのである。


アメは早速首謀者を連れてこさせた。


手錠をかけられ屍人の二人に連行されてきたのは、これまた若い男である。但し、ヘイムダルとは違い、信念を持った目をしていた。


「その者が、今回の襲撃を?」


ユースフ元帥は尋ねる。


「ええ。名を村中という者、我々には国籍など関係ありませんが、日本人と言っていいでしょう」


「動機を尋ねてもよいですかな?」


「そう望むのなら、構いませんよ」


ユースフ元帥は村中という男に理由を尋ねた。すると村中ははきはきと答え始めた。


「私が今回の乱を起こせしは、我ら屍人の安泰を護らんが故であります。我らの安寧を乱さん者ならば、我らの姫とて我らに対する裏切り者。これ以上でもこれ以下でもありません」


「ほう。分かりやすくて結構なことだ。そして、お前が我ら人類の敵ということもわかった」


「相違ありません」


「気骨のある奴だ」


動機はおよそ想像された通り。


想定外だったのは、その首謀者がかなり骨のある、明確な信念を持った奴であったことくらいだ。


とは言え、それで何かが変わる訳ではない。人類に対し敵意を持っているのは明らかである。


「この者を、処分せねばなりません。死を与えるのが適当であると考えますが、皆様の意見はどうでしょうか?」 


ユースフ元帥は躊躇いなく死刑を求めた。とは言え、無論、彼の判断で全てが決まる訳ではない。処遇は話し合いで決める、即ち、この議場が法廷となるのだ。


もっとも、結論など分かりきっていることだ。


まず普通に考えて、彼が死刑以外の刑で済む筈がない。彼の私的な行為によって数百人が死んだのだ。それにサンパウロにも少なからぬ被害を与えた。人命も含めてだ。


これには南米連邦のヴァルガス大統領も加わり異論なし。


加えて、彼を殺した方が、後々に屍人と人類の良好な関係を築く為にプラスに働くだろう。


法律的にも外交的にも彼を殺さない手はないのである。


「では、その男に死を」


ユースフ元帥は宣言した。


「となると、ここで殺しますか?」


アメは言った。


「この場で、彼を殺そうと?」


原首相のその言葉は、およそこの場の人々の総意を代表していた。しかしアメに退く気はないらしい。


「はい。後に回せば、誰が死刑を執行するかで結局は揉めることになるでしょう。ならば今ここで手を下した方がいいのでは?」 


「そ、それは確かにそうですが…」


とは言え、この場で殺すにしても誰が殺すかの問題はある。ここにいるのは基本的に貴人ばかりなのだから。


「ここは、東條少将、あなたにやってもらいたい」


アメは唐突に言った。


「え、わ、私、ですか?」


東條少将は答えに窮した。一体どういう了見か、見当も付かなかったからである。 


「ええ。今私達がこんなことになっている原因であるあなたに、融和の妨げを討って欲しいのです」


「わ、わかりました。他の皆さんに異論がないのならば」


東條少将は回りを見渡してみたが、反論する者はないらしい。皆、面倒事を避けられて安堵しているようだ。


その様子では仕方ないなと東條少将は議場の真ん中に進んだ。銃はこの為だけに外から持ってこさせた。


「何か、最期に言いたいことは?」


「あなた方の平和は仮初め。いずれ崩れ落ちる。覚えておかれよ」


「それだけか?」


「ああ。さあ、殺せ」


「わかった」


人を殺すこと事態に大した躊躇いはない。


東條少将は、村中の遺言を聞き終えるや、手に持った拳銃の引き金を引いた。


銃弾は額を穿ち、村中の体は力を失って前方に倒れる。


東條少将はそれを受け止め、静かに横たわらせてやった。


「死体を持ち帰るという訳にはいかないでしょう。埋葬はこちらで済ませておきます。宜しいですね」


ヴァルガス大統領は言った。これも素直に受け入れられた。


かくして、サンパウロ襲撃事件は幕を下ろしたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ