呉越同舟
「盛り上がっているところ悪いですが、少々ご報告があります」
アメは言う。
「な、何ですか?」
「ここに迫る正体不明の艦隊、その正体が判明しました」
「おお。それは是非ともお聞かせ願いたい」
「はい。あれの正体は、我々の同胞です。恐らく、人類との和平を拒否する者が私に反旗を翻したのでしょう」
「それは、お姫様の力で何とかならないんですか?」
「無理です。意識を持った屍人はそもそも脳が正常なままなので、その行動に干渉することは不可能です」
「それはまた、厄介なことになりそうですね…」
とゲッベルス上級大将は軽く言うが、実際のところはこれまたかなり不味い。
人間の意志を持った屍人というのは、殆ど人間の上位互換のようなものだ。弾を何発ぶち込んでも突っ込んでくるような輩が集団戦術で攻め込んでくる。地獄の獄卒か何かかと思えるものだ。
「情報は以上ですか?」
「はい。詳しいところはまだ」
敵の手駒はわからない。しかし勝利の方策を立てねばならない。ゲッベルス上級大将は状況を整理していく。
「まず、敵方の飛行艦隊について、その総数はおよそ2個飛行艦隊、我々とほぼ同数です」
人類連合軍などと銘打ってはみたものの、所詮は会場警備部隊の寄せ集め。大きな戦力とはならない。
「仮に敵が艦隊決戦で勝負をつけようとしてくるのなら、勝機は十分にあるでしょう。しかし、恐らく敵はサンパウロへの強襲上陸を志向する筈。そうなれば、全てを落としきることは不可能です」
「つまり、サンパウロで地上戦をするしかないのですね」
東條少将は言った。
「そうだ。ついては、サンパウロをいくつかの戦区に分割し、各国の軍をそれぞれに配置、ここを防衛します」
取り敢えず頭は統一されたものの、白兵戦のような現場の連携が必要な戦闘で多国籍軍が機能するとは考えられない。ある場所で戦うにはある国の軍内のみ。これが最良の選択だろう。
この策に反対する者はなく、ゲッベルス上級大将は早速兵力の仕分けを始めた。
「少将、地上での軍の指揮は機関に任せる。いいか?」
ゲッベルス上級大将は言う。飛行艦隊と地上部隊を同時に指揮するのは効率が悪いのだ。
「わ、私がですか?」
「ああ。少将の部隊はこれまで幾多の戦を勝ち抜いてきただろう?いけるさ」
「確かに、白兵戦の技量が一番高いのは我々かもしれません」
ソビエト共和国なども強力な部隊を保有していたが、以前の戦いでその指揮官、ロコソフスキー少将を失っている。日本軍は最近は屍人に頼りっぱなしで、アラブ帝国に至っては正面きっての戦闘をしたこともない。
となると、白兵戦で最強なのはローマ連合帝国軍、その中でもさらなる最精鋭を率いる東條少将の部隊だろう。自惚れなどではなく、客観的な事実である。
「わかりました。地上はお任せ下さい」
「頼んだぞ」
ゲッベルス上級大将はこれを前提に配置を進める。するとその時、アメが不意に声をかけてきた。
「我々も兵力をお貸し出来ますよ」
「屍人の兵士ですか?」
「まあ、そういうことです。とは言え、皆優秀で勇敢な兵士です。十分に信用出来ると私が保証します」
「ならば断る理由はありませんね」
数こそ少ないが、敵と同格の強さを持った兵士だ。使いよう次第で相当な戦いを期待出来るだろう。ゲッベルス上級大将に手段を選んでいる余裕はなかった。
「地図を見てください。このように部隊を配置します」
各々の持つデバイスに、上級大将手作りの地図が送られた。
今彼らがいる議場を中心とし、四方向それぞれに軍を配置、そして中心に東條少将の部隊が配置された。アメの部隊は遊撃隊ということになり、結局はゲッベルス上級大将が適宜動かすこととなった。
「では、時間はあまり残されていません。各々、担当する戦区にて準備を」
それが決まるや軍議はお開きとなる。
諸将は戦区へと向かい、ゲッベルス上級大将は飛行艦隊へと向かった。
東條少将は、議場となっているホテルの防備を固めにかかる。とは言えやれることは少ないが。
「何を優先すべきだと思う?」
東條少将は白兵戦担当の牟田口少佐に尋ねる。
「まずは敵の侵入経路を一つに絞るべきでしょう。裏口などはことごとく固めてしまうべきであります」
「戦場は正面を選ぶのか?」
「はい。広い戦場の方が見通しもよく、防衛側に有利であります」
「わかった。部隊を動かそう」
東條少将の考えも、およそ牟田口少佐のそれと同じものであった。故に迷うことはない。
裏口については土砂で埋め立てて塞ぐという荒技を使い、正面には申し訳程度の陣地を作った。またそれが突破された時の為、屋内にもバリケードをいくつか用意してある。
「飛行艦隊、敵艦隊との交戦状態に入りました」
AIの方の大和は言った。今回は珍しく彼女を引き連れてきてある。
「総員、戦闘配置だ」
真に大義の為の戦争が幕を開けた。




