スペシガン奪回戦Ⅰ
崩壊暦214年7月15日01:32
「敵艦隊確認、距離300kmです」
「結構。こちらから打っては出ない。高射砲を活用し、ここで撃退する」
ヒューロン湖にて、敵新兵器の攻撃の前に、逃げ帰ってきた日本軍は、スペシガンで態勢を整えていた。しかし、米軍はそんな時間を与えてはくれない。
つい先日、米軍に動きありとの報の後、1日も経たずに、米軍はスペシガンに来襲したのだ。
米軍は、どこから出してきたのか、ヒューロン湖の時よりも多くの艦を揃えているようだ。ミシガン湖を抑えている伊藤少将から、特筆すべき報告はない以上、敵は、未だに戦力を隠していたようだ。
スペシガンの上空では、既に、日本艦隊が防衛線を張っている。しかし、先の戦闘により、その戦力は磨耗し、米艦隊との戦力差は僅かしか残っていない。
地上からの援護を合わせれば、まだ優位とはいえるが、依然厳しい状況である。そんな時、艦橋に1人の爆弾がやって来た。
「私には、出番はないのですか!」
怒声とともに詰め寄ってきたのは、神崎中佐である。神崎中佐は、東郷大将に出撃させて欲しいようだ。スペリオル湖での戦闘では、十分に活躍したはずだが、それでも不満足らしい。
「中佐、今はその時ではない。敵にも、こちらと同等の航空戦力があるから、攻撃は困難が予想されるだろう。しかも、こちらには、新型の高射砲弾もあって、対空戦闘は十分にできるのだから、無闇に突っ込んで犠牲をだす必要も無いと思わんかね」
「ならば、前回のように、敵艦隊の下に潜り込むのは、どうでしょうか?」
「それも危険だ。却下する」
神崎中佐が提案するのは、先のヒューロン湖での湖上要塞爆撃の時のように、敵艦隊の下で暴れてやろうというものだ。しかし、敵がその対策を取っていないとは考えにくく、無駄な犠牲が生じる可能性が高いのだ。
従って、東郷大将は、次の命令を下した。
「神崎中佐には、スペシガンの守護を頼みたい。艦隊だけでは、対空能力は十全では無い。中佐には、撃ち漏らしを残さず狩って欲しい」
「く、承知しました。閣下。米軍機など、全て叩き落としてやりましょう」
「うむ、結構」
神崎中佐は、重要な任務となると、案外あっさりと受諾するようだ。ひとまずは、艦隊と都市の直掩ということで、二人は合意を得た。
「閣下、やはり、本国より運んできた、『天羽々斬』を使いますか?」
「ああ。若干の不安は残るが、本国を信じて、使うほかないだろうな」
この天羽々斬とはスペリオル湖の戦いを制した数日後、スペシガンに配備しろとのことで送られてきた、最新の高射砲である。
サンフランシスコ攻防戦以降、散々に無能と見られてきた高射砲であるが、この天羽々斬は帝国初の電磁加速高射砲として、米軍に一矢報いることが期待されている。
電磁加速砲は、これまでも、各艦の対空機銃としては使用されてきたが、今回のものは立派な砲である。
「米軍が使った兵器と比べれば、幾分か色褪せて見えますが、威力は本物です。これでやっと、地上からでも飛行戦艦と戦えるのです」
「そうだな、中佐。こいつなら、現状を打破してくれるかもしれん。ヒューロン湖で我々が味わった思いを、奴らにも味あわせてやろうじゃないか」
「もちろんであります」
天羽々斬があれば、艦隊からの攻撃と合わせ、十字砲火を行える。それがうまくいけば、これ以上の犠牲なしに、米艦隊を撃退できるかもしれない。
また、天羽々斬そのものの防衛は、神崎中佐が引き受けた。
敵は、後僅かで戦闘が始まるところまで迫っている。




