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終末後記  作者: Takahiro
3-3_最終決戦
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最終決戦

崩壊暦215年10月7日07:34


アラブ帝国軍は敗北した。即ち、遥々東征を行ってきた日本軍は数的不利に直面するということだ。


「敵艦隊、前進を開始!」


「カルタゴも出てきます!」


「小細工でどうにかなるものでもないな…全艦、砲撃戦用意!」


伊藤中将は悲壮な決意を叫んだ。


帝国軍にはこれ以上の奇策はない。残るは全軍を以てしての決戦のみであった。


「撃ち方始め!」


そして戦闘が始まった。両軍共に全力を割いた戦いである。


双方はさしたる戦術も用いず、ただただ艦を横に並べ、砲撃を繰り返した。それは原始的とも言える闘争であった。


「友軍被害甚大!このままでは…」


「最早、退路はない。残るは玉砕あるのみだ」


「そ、それは…」


伊藤中将は勝利の可能性に最早期待していなかった。この戦いの目的は、敵に最大の損害を与え、戦後の外交を大東亜連合に有利に運べるようにすることであった。


幸い、こちらの方が寡兵とは言え、数倍の差があるという訳ではない。全滅まで戦えば、敵にも相当な損害を与えられるだろう。


「カルタゴに陣形が食い破られるか」


より良い負けを掴むことについては、まだ諦めていない。敵に一方的に撃滅されるような事態は最悪だ。だが、その脅威は目の前に形を持って存在している。


「閣下、カルタゴだけは沈めましょう。あれは、旧世界の戦略核にも匹敵する兵器です」


雨宮中佐は強い口調で言った。


「確かにそうだが、どうするつもりだ?」


沈められるものなら最優先に沈めている。それが出来ないから難儀しているのである。


「飛行戦艦による特攻、これしかありません」


「言うじゃないか」


「現実的に考えたまでですよ」


砲弾なら防げても、戦艦は防げまい。単純極まる発想だが、それほ恐らく正解だ。カルタゴを沈めたいのならそれしかない。


「ならば、この金剛から特攻をやろうじゃないか」


「閣下が特攻を?」 


「悪いか?」


「武官としては正しいかもしれませんが…」


旗艦と総司令官が率先して特攻を行うなど前代未聞である。しかし、部下に死を強要する割に自分だけ生き残ろうとするというのは、武人として格が低い。


「安心しろ。後任はちゃんと決めるさ」


「それは、閣下が望むのですか?」


「ああ。生きて虜囚の辱しめを受けるくらいなら、いっそ玉砕して華々しく死んでやるさ」


その後、伊藤中将は淡々とことを進めた。


後任の指揮官を任命し、最後の一兵になるまで抵抗を続けるよう命じた。


そして最後の準備にかかる。


「私はこれから特攻を行うが、諸君が無理に参加する必要はない。人はそう要らないからな」


戦闘行動を放棄し、ただ特攻を行うだけならば、実のところ全体で十人もいれば何とかなる。兵が多くて助かることはないのである。


「抜けたいものは出ていってくれて構わない。私は決して強制はしない」


しかし、その言葉で席を立った者は一人もいなかった。


「ああ、あれか。なら、参加したい者は挙手」


すると今度は半分未満の者しか手を挙げなかった。


「何だ。いるじゃないか。さあ、さっさと出ていけ」


伊藤中将はそう穏やかに言った。手を挙げなかった者は、静かに艦橋から出ていった。そして金剛から脱出した。 


「よし。では行こう。全速前進!目標カルタゴ!」


飛行戦艦カルタゴは、猛然と突撃を開始した。


その意図をカルタゴが察するまで、暫しの時間を要した。そしてその間に両者の距離は詰まる。


「カルタゴから砲撃が!」


「怯むな!進め!」


「友軍から援護です!」


「おお、流石は我が帝国軍」


カルタゴに本気で狙われれば金剛が為す術なく落とされる可能性もあった。それを防ぐべく、帝国艦隊はカルタゴを一斉に砲撃、その行動を妨害する。


金剛にとってそれは十分過ぎる支援であった。


「突っ込め!!」


カルタゴより少し高い高度から突入することで、その艦橋や武装を破壊する作戦である。


金剛の艦橋がカルタゴの艦橋に迫る。


金剛の艦首はカルタゴの艦橋の根本に突っ込み、これに突き刺さった。そして金剛は更にエンジンを吹かせ加速していく。


艦橋どころかその周囲の装甲までも破壊したところで、金剛はその機能を停止した。


「天皇陛下、帝国に輝かしい未来を…」


伊藤中将がそう言ったのを記録した者はいなかった。


カルタゴの艦橋と金剛の艦橋は重なりあい、いずれも無惨な姿となっていた。生存者など期待出来るものではない。


そしてカルタゴは高度を落とし始めた。金剛の特効は、カルタゴの主機にまで届いたのである。


大日本帝国軍の旗艦とアラブ帝国軍の旗艦は、相討ちという結果にその命を燃やし果たした。

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