第二回南部方面Ⅲ
「よし、やるぞ」
「敵対艦ミサイル、目標、戦艦グロースドイチュラント!」
「ならば…CF2空域に火力を集中せよ!」
ミサイルを追うのではなく空間を対空砲火で埋め尽くす。対空ミサイルが発明される前の対空戦術に近いものである。
この時代のミサイルとて、このような攻撃に対し迂回するような機能はない。
対艦ミサイルはたちまちにこちらの防衛エリアに投入した。
「いけるか…」
それは客観的に見れば一瞬の出来事であっただろう。だが、この作戦を実行する側には、数十分にも及ぶものに感じられた。
だが、それは確実に機能していた。敵の対艦ミサイルは、その殆どが片っ端から落とされたのだ。
「残りは3つだけか。その程度なら問題あるまい」
「どうやら、作戦は成功のようですな」
近衛大佐は言った。
「ああ。これならば、ケラウノスとて怖くはない」
その後も作戦は成功し続け、アラブ帝国軍のケラウノスはほぼ完封出来た。撃ち漏らしも多少はあったが、その程度ならば後ろの艦隊でも撃ち落とせる。
そこで東條少将はとある簡単なことに気付いた。
「これは、敢えて艦隊を合流させる必要もないんじゃないか?」
「確かに、ケラウノスを落とせるのならば、問題はありませんな」
「そうだ。寧ろ今度は合流しない方がいいかもしれない」
これまで艦隊を合流させねばならなかったのは、艦隊の上空を素通りするミサイルが落とせなかったからである。合流すれば、例えそれでも後ろを狙うとしても、ミサイルは高度を落とさざるを得なくなる。
しかし、東條少将はケラウノスを撃ち落とすことに成功した。そうなると合流にメリットはない。
そして今度は合流によるデメリットに目がいく。
合流してしまうと、今度は通常の対艦ミサイルも後ろに届くようになり、数で押しきられる可能性が出てくるのだ。
そうなると、このままの位置を維持する方が好ましいとも考えられる。
「ゲッベルス上級大将とハンニバル大佐に、また通信だ」
「了解です」
この三頭艦隊にも随分慣れてきた。通信はすぐさま始まる。
東條少将は、軽く挨拶をするや、先程の思い付きを説明した。
「なるほど。確かにその通りだ。合流の必要はない」
「ハンニバル大佐は?」
「私も、上級大将閣下と同意見です」
「では、そういうことで」
「了解だ」
「了解です」
という風に、合流の中止はものの数分で決定された。
北の艦隊は動きを停止し、日本軍と睨み合う。南は現在の体制を維持である。これで一方的になぶり殺される事態は回避出来た。
しかし、それは目の前の敗北を回避しただけに過ぎない。未だ勝利へのプランはない。
「閣下!敵対艦ミサイル、目標は我が艦隊です!」
「力押しに切り替えたか?」
ケラウノスでカルタゴやらを狙うのは無駄だと察したらしい。今度は東條少将の艦隊を直接潰しに来たようだ。
確かに物量の差はある。だが、迎撃に専念すれば、倍の敵艦隊からの飽和攻撃にも対処出来る。それは東條少将の戦訓などではなく、軍人の一般常識である。
「閣下!ケラウノスもです!目標、カルタゴ!」
「何?」
手前と奥を同時に狙われた。これは非常によろしくない。
先程の空域防御戦術は、普通の対空戦術と比べ大量の砲やミサイルを使わなければならないという欠点がある。
そこに通常の攻撃も同時に来るとなれば、前方へ投射出来る火力が減ってしまうのは必至である。
「どちらも相手取るしかない。火砲を上と前に振り分ける」
「はっ」
これはどうしようもない。どちらかを捨てる訳にはいかないからだ。
そして、当然の帰結として、上も前も迎撃が疎かになる。後ろにはそれなりのケラウノスを通してしまい、艦隊そのものも手傷を負ってしまった。
「どこからこんな大量のケラウノスが飛んでくるんだ?」
「ダマスカスの基地です」
「ダマスカスは内戦状態じゃないのか?」
「はい。しかし、軍施設は堅固に守られ、突破はほぼ不可能とのこと」
「民兵の限界か…仕方ないな」
ダマスカスで武装蜂起を起こすことには成功した。それは確かに、長期的な生産力に痛手を与えただろう。
だか、今この場においては何の意味もない。地上のミサイル基地が健在では、蜂起があろうとなかろうと、状況に変化はないのだ。
「やはり合流すべきか?」
「少しは状況が良くなるかも知れませんな」
「とは言え、あまり変わらんか…」
やはり防御に徹するだけでは埒があかない。何らかの攻撃的作戦が必要だ。
だがその時、艦橋が不自然に揺れた。
前方を見れば、大和の前部から火が上がっている。ついに大和が被弾するまでに状況は悪化しているのだ。




