謎の輸送艦隊
崩壊暦215年10月4日16:23
飛行要塞カルタゴにて。
東條少将の艦隊はジブリールを倒したものの大損害を負ってしまった。それに対して北の艦隊の一部を南に移そうとしていた時の児とであった。
「敵艦隊に動きあり。艦隊の一部が突出を始めました」
「暫くは様子を見よう」
ハンニバル大佐は言った。
確認されたのは、日本艦隊のうち10隻程度がアラブ帝国艦隊がある方に向かって動き始めたこと、そして、そのうちの半分以上が輸送艦であるということだった。
「何かを運んでいる、と考えるのが妥当か」
「そうだと思われます」
輸送艦が大勢飛んでいるとなれば、何かを運んでいると考えるのは自然なことだ。そして、恐らくそれが間違っていることはない。
なれば、それが何を運んでいるのか、そして部隊にどう対処するかを考える必要がある。
「こう危険を冒してまで運びたいものとなれば、相当重要なものなのだろう」
「しかし、そんなものがあるのでしょうか?」
カルタゴもジブリールも大和も、それ一隻で戦況をひっくり返せる力を持った兵器である。しかし、当然のことながら、それらは物理的にそれなりに大きい。とても輸送艦の中に詰め込んで運べるようなものではないのだ。
「イカロスとか、それに似たようなものではありませんか?」
「考えられなくはないが…」
自在ヒト型戦闘攻撃機たるイカロスは、確かに対艦攻撃機として相当な威力を持っている。仮にそうであった場合、確かに敵の行動もそれなりに納得がいく。
「しかし、イカロスは我々がつい最近開発、というか再生させた兵器だ。その情報が敵に漏れて、なおかつ量産出来る体制にまで入っているとは思いたくないな」
イカロスを敵が持っているということは、裏切り者がどこかにいるということだ。だが、ハンニバル大佐は味方を疑うことはしたくなかった。
それ故に、その可能性は排除して考えることとした。
「であれば、一体何なのでしょうか?」
「考えてもしょうがない気がしてきた。ただ、あれは輸送艦隊を犠牲にしてでも運ぶ価値のあるものである、と分かれば十分ではないか?」
「そうですね。それで十分でした」
中身を推定する必要はない。それが敵にとって重要なもの、つまりローマ連合帝国軍にとって危険なものだと分かれば、対応を考えるには十分である。
「よし。ゲッベルス上級大将と東條少将と話し合いをしよう。それが先決だ」
このローマ連合帝国艦隊は3つの部隊によって統制されている。東條少将率いる旧日本軍の艦艇を中心とする部隊、ハンニバル大佐率いるカルタゴを中心とする部隊、そしてゲッベルス上級大将率いる旧ヨーロッパ国軍の部隊である。
まあ本来は頭を1つに統一すべきではあるが、この中で上下をつけることは憚られ、今の艦隊はさながら三国の連合軍のような形になっている。
さて、ハンニバル大佐は残りの両名に通信をかけた。
「ハンニバル大佐です。早速ですが、あの輸送艦隊をどうするのか、お二方の意見を聞かせてもらえますか?」
「あれを攻撃する為に動くのは愚作だろう。恐らく、それで陣形が崩れたところに総攻撃を仕掛けるのが奴等の作戦だ」
ゲッベルス上級大将は言った。
「私もそう思う。ここは静観すべきだろう」
東條少将も同意見である。
しかし、ハンニバル大佐には懸念があった。
「敵は、仮に我々が攻撃すれば吹き飛ぶようなものを、危険を冒してまで飛ばしています。これは相当に危険なものを運んでいるのではないでしょうか?」
「輸送艦で運べるもん程度で何かが変わるとは思えないな。仮に超強力な兵器があったとしても、それを潰すメリットより、それによって陣形が乱れるデメリットの方が大きいと思うが」
ゲッベルス上級大将は、あくまで攻撃に動くことを否定した。
「損得計算をすれば、座視すべきということですか」
「そういうことだな」
「私も同感だ」
かくして、敵軍の輸送艦隊については放置すべしということが決定された。
確かに敵が強力な兵器を運んでいる可能性はあるが、それを破壊する為に艦隊を危険に晒しては本末転倒であろうということだ。
「輸送艦隊が到着したようです」
「やはり、不安だ…」
ハンニバル大佐はそれを運び込まれたアラブ帝国艦隊と相対している訳ではない。そうしているのは東條少将である。
だが、この不気味な行動に不安を抱かざるを得なかった。




