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終末後記  作者: Takahiro
3-3_最終決戦
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南部方面Ⅰ

崩壊暦215年10月4日10:35


「敵も味方も動きはなし、か」


東條少将は呟いた。


双方の布陣は既に完了した。アフリカおよびヨーロッパ軍はホムスとダマスカスの間に陣取り、ダマスカスにはアラブ帝国軍が、ホムスには日本軍が陣取っている。


また、ローマ連合帝国軍はその艦隊を大きく2つに分割し、それぞれの敵に当たらせている。日本軍に対してはカルタゴを中心とする5個艦隊を、アラブ帝国軍に対しては大和を中心とする3個艦隊を向けているのだ。


だが、未だその戦闘が始まる様子はない。双方のほぼ全力を集めた戦争であるだけに、双方共に慎重にならざるを得ないのだ。


「どちらが先に痺れを切らすかの勝負という訳ですな」


近衛大佐は言う。


「ああ。だが、ここで永遠に陣取り続けることは出来ない」


「それまで敵が動かねば、こちらから動くしかありませんな」


「どうすべきか、迷うな…」


ここはアラブ帝国領内である。補給等に関しては圧倒的に向こうに分がある。極論、このままこちらの燃料が尽きるまで耐え抜けば向こう側の勝ちなのだ。


そうして睨み合うこと更に3時間程。


「あれは、話に聞くところのジブリールとやらか?」


東條少将はダマスカス市中に得意な形状をした飛行艦の姿を認めた。その姿はソビエト共和国軍が遭遇したという光学兵器と酷似している。


因みに、その名が知れているのはアラブ帝国がジブリールを神の兵器と宣伝し始めたからである。まあ名前だけなら神の兵器で間違ってはいないが。


「はい。ソビエト共和国軍から寄せられたデータと完全に一致しました」


「ついに来たか…全艦、第一種戦闘配置!」


戦いの火蓋は静かに切って落とされた。


ジブリールの射程はあらゆる砲、ミサイルのそれを凌駕すると想定される。即ち、ジブリールが出てきた時点で睨み合いは終わったのである。


「これより、対光学兵器作戦、ペルセウス作戦を開始する」


第一の作戦はジブリールの破壊である。これがある限り、敵艦隊と正面からぶつかることは叶わないだろう。


そしてペルセウス作戦とは、一部の艦に設置した巨大な鏡によってジブリールの光線を反射、本体を破壊する作戦の名である。


作戦名は、見た者を石に変える怪物メドゥーサを盾に鏡のように映った姿を見ながら討伐した英雄ペルセウスに因んだものである。


「作戦通り、大和正面の艦はジブリールとの間の線上から離れよ」


全ての艦に鏡が設置されていない以上、鏡が設置されて艦を敵に確実に狙わせる必要がある。


そこで最初に的として挙げられるのは艦隊旗艦である大和だろう。これを確実に狙わせる為、ジブリールの射線を確保してやるのだ。


因みに、大和の艦橋は無人であり、東條少将らは下の司令室を使っている。


「大和、頼んだぞ」


「はい!頑張ります」


ペルセウス作戦中の操舵はAIの方に任せられる。それが最も確実性の高い方法だからだ。まあやけに陽気なのは気になるが、AIだから問題はあるまい。


「ジブリールの照準は、大和に向けられています!」


「作戦通りだ」


「来ました!」


艦橋を覆うガラスが凄まじい勢いで溶け落ち始めた。何の音もなく何も見えないが、そこには確実にレーザー光が走っているのである。


そして同時に大和はその姿勢を自ら制御し始める。人が操舵するならば気にもかけないような微細な制御もペルセウス作戦では必要とされる。


「このままいけば…」


ジブリールの方が炎上し始めるだろうと、東條少将はジブリールに視線を移す。


だが、その時は一向に訪れない。見た目の上では何もしていないジブリールはただ静かに佇んでいた。


「レーザーの照射は止まったようです」


「な、し、失敗、したのか…?大和?」


「そのようです…」


大和は暗い声で言った。


「原因は?」


「わかりませんが、恐らく、鏡に僅かな歪みが生じていたのでしょう。僅かな歪みでも、数十kmも離れれば、大きな差となります」


「そ、そうか…大和はこれ以降動かないこととする」


大和は艦橋を失い機能停止に陥ったと敵に誤認させなければならない。そうしなければ敵が艦橋を狙わなくなるのは必至だ。


「ジブリールには他の艦を狙わせる。ペルセウス作戦はまだ終わってはいない」


大和だけにしか鏡を積んでいない訳ではない。他にも艦隊旗艦クラスの艦には鏡を設置してある。まだ希望は十分に残されているのだ。


「ジブリールは戦艦アディスアベバを狙っているようです」


「想定からは外れていない。大和、アディスアベバの操舵を頼んだ」


「了解です」


戦艦大和以外の艦も大和(AI)が操ることとなっている。


そして、次こそは成功してくれと、東條少将は柄にもなく神やら仏に縋っていた。

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