第二次ヴォルゴグラードの戦いⅡ
崩壊暦215年9月22日15:12
「閣下、敵軍が降伏する気配はありません。死兵のごとき覚悟があるものと思われます」
パヴロフ少将はジューコフ大将に言った。
「どうあっても抵抗を続けるか…」
ジューコフ大将は苦虫を噛んだような顔で応えた。
敵艦隊は下がったものの、敵側の高射砲が抵抗をやめる気配はなし。徒らに損害だけが増えていく。しかし、ジューコフ大将はヴォルゴグラードへの全力攻撃を命令出来ないでいた。
「このままでは我が軍の損害が増えるだけです。ヴォルゴグラードへの爆撃を命じた方が良いのではないでしょうか」
「しかし、しかしな、ここは敵地ではないのだ…」
「今は敵地です。市民の犠牲も、ある程度は覚悟すべきです」
問題は、このヴォルゴグラードがソビエト共和国の都市であるということである。当然ながらその市民の大半はソビエト共和国の同志であり、ヴォルゴグラードを攻撃するろいうことは彼らに銃を向けることに等しい。
「そうだ、地上部隊を送ることで砲台を制圧しよう」
「しかし、敵の飛行艦隊が残っている以上、それは厳しいのでは」
地上部隊を送ってそれは敵の飛行艦隊に撃たれれば、大きな損害が出るだろう。そうなるくらいなら今すぐに砲撃を開始した方がいい。パヴロフ少将はそう訴える。
だがジューコフ大将には勝算があった。
「敵は恐らく、我々と同様に損害を出すことを恐れている。それは敵の動きを見れば明らかだ」
「確かに、そうです」
「もし我が軍の地上部隊を砲撃するとなれば、当然敵はヴォルゴグラードに近づかねばならない。しかし、それは同時に我が軍と正面から当たることを意味する。敵はそんなことを望まない筈だ」
ジューコフ大将は、こちらの飛行艦隊が健在な限り敵艦隊がヴォルゴグラードに近づいてくることはないと踏んだ。それならば、地上部隊を送り、少ない犠牲で状況を打開出来る。
「しかし、その確証はありません」
「まあな。だが、最悪の場合は敵艦隊との決戦に突入し、敵艦隊を撃滅してしまえばいい。例え敵と同じ被害でも、お釣りはくるだろう」
「なるほど。敵は確かにそれを望まないでしょうね」
「そういうことだ。まあ、これで敵将が愚将だったら話は別だが、そんなこともあるまい」
敵の立場になって考えてみれば、敵がヴォルゴグラードへの攻撃をしない公算は大きい。確実なことは何も存在しないの戦場では十分な公算である。
「直ちに上陸部隊を編成。市内各砲台の制圧に向かわせよ」
「はっ」
そして艦隊から数十のヘリコプター、上陸艇が飛び立ち、ヴォルゴグラードの各所へと着陸していく。そして部隊が市内に散りばめられた砲台へと向かっていく。
「敵飛行艦隊に動く様子はありません」
「取り敢えずは読みが当たったか」
敵飛行艦隊が妨害してくるという事態はまず回避出来た。だが、それだけだ。まだ地上では戦闘すら始まっていない。
「敵地上軍にも動きはなし」
「砲台は依然として稼働しています」
「砲台に立て篭もる気か」
地上の方では敵は陣地に立て篭もっての抵抗を試みているようだ。そう簡単に負けてはくれないらしい。
だが兵力はソビエト共和国軍が圧倒的に優位だ。時間はかかるが数で圧し潰せばいいだろう。
「閣下!敵部隊が市内に現れました!」
「何?」
敵は砲台に立て篭もっている筈だ。それがどうしたというのか。ジューコフ大将は取り敢えず詳細を尋ねる。
「どこからどのくらい現れたんだ?」
「第十二地区より、数十人の小部隊とのことです。市内に潜伏していたものかと」
「これは厄介だな…」
それ自体は脅威ではない。数十人程度なら数で押しつぶせる。では何が問題かと言えば、これで市内のどこにでも敵兵が潜伏している可能性が出たことだ。
進軍スピードは遅れることとなるだろう。
「仕方ない。全軍、常に周囲を警戒しながら進め。どこからでも敵兵が飛び出してくる可能性はある」
これ以降、部隊は敵兵が潜んでいそうなところを逐一確認しながらでないと進めなくなってしまったのである。
地味だが有効な時間稼ぎだ。
「敵飛行艦隊、撤退を開始ました」
「やっとか」
ここで敵の飛行艦隊は撤退するらしい。まあ、だからと言って状況は何も改善されないが。
「これで敵が降伏する、なんてことは考えられませんかね?」
パヴロフ少将は冗談交じりに言った。
「ないだろうな」
「ですよね」
地上については完全に制圧するしかなさそうである。だがあまり悠長にしてもいられない。だが急ぐことも出来ない。
「ここは堅実に進めるしかないか…」
ジューコフ大将は呟いた。




