アルテミス作戦
崩壊暦214年7月13日18:06
「全軍、前進せよ。また、艦隊は最大戦速で前進し、敵を突き崩せ」
チャールズ元帥は新たな指令を下す。
ヒューロン湖に用意された超兵器アルテミス。その正体は、旧文明が唯一残した、大口径電磁加速砲の運用装置である。これは、今となってはロストテクノロジーの塊であり、辛うじて修理が出来るに過ぎない。
電磁加速砲、それも78cmの砲弾を打ち出すには、莫大な電力が必要である。通常、湖上要塞でそんな電力は確保できないが、このアルテミスに限っては、内蔵の高性能原子炉によって、電力を確保できる。
更には、この巨大砲弾を遥か50kmの先まで放つことができるのだ。
「敵巡洋艦撃沈!」
そして、その威力もまた凄まじい。先程、敵の戦艦を一撃で行動不能にしたのを皮切りに、既に、3隻を3発の砲弾で仕留めた。
その砲弾が当たれば、如何なる精強な艦とて耐えられない。一撃で地上に叩き落とされるのだ。
ヒューロン湖には飛べない壊れた飛行艦が3隻浮いていた。
「敵艦の拿捕は後回しだ。とにかく、敵艦を落とせ」
先程の攻撃以降、アルテミスを恐れた日本軍は、艦隊を散らせている。確かに、アルテミスの攻撃は当たらなくなってきたが、一方で、通常の空戦にはめっぽう弱くなっている。
そこを突くのがチャールズ元帥の作戦である。
「閣下、敵は組織的に後退しているようです。決して包囲はされないように、確実な陣形を取る方が良いでしょう」
「そうだな。艦隊には、敵中央を狙うなと伝えてくれ」
敵は後退を始めた。しかも、散り散りに逃げるのではなく、確実に陣形を保ちつつ後退しているようだ。また、その陣形は、散開しつつも、戦闘に対応した形に再編されている。流石は日本軍といったところだ。
「全艦、敵左翼に火力を集中し、敵戦力をできるだけ削れ」
チャールズ元帥は更なる命令を下した。
このまま日本軍がスペシガンまで撤退すれば、当然ながらアルテミスは使えない。その状況では、米艦隊の優位は失われる。
チャールズ元帥は、そうなる前に、できるだけ戦力を削りたいのだ。
敵の左翼、米軍から見れば右側の端に、艦隊や湖上要塞から次々と砲弾が放たれる。多くは外れ、その先の湖上に落下するが、一部は見事に着弾している。
しかし、日本軍の先鋒は硬い。一発や二発の普通の砲弾では、余程いいところに当たらなければ、沈むことはない。
また、その日本艦隊も、負けじと砲弾で返事を返してくる。
艦隊には殆ど当たらないが、巨大である湖上要塞には、その殆どが当たっている。しかし、大量の主砲の一部が破壊されたところで、湖上要塞が止まることはない。
両軍は、互いに砲火を交えながら、日本軍がたどった道を逆行していく。
「イリノイ被弾。対空砲小破です」
「問題はない。このまま追撃せよ」
と、砲火の応酬は続き、両軍とも、被害は増すばかりである。しかし、ここはアメリカ連邦であり、即座に艦を修理できるのは、米軍側である。
この程度の損傷は全く度外視できるものである。
「もうそろそろ、地上だな」
ヒューロン湖の端が見えてきた。アルテミスはそれ以上進めない。
「はい。この辺りが、関の山でしょう。一度、デトロイトまで、補給と修復の為に帰還しましょう」
「ああ、そうしよう」
かくして、米軍は、日本軍の攻撃の意図を見事に挫いたのであった。




