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終末後記  作者: Takahiro
1-3_五大湖攻防戦
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湖上要塞砲

「ヒューロン湖に到着です」


「結構。引き続き、前進せよ」


連合艦隊の真下には、ヒューロン湖の端が見える。早くも、連合艦隊はヒューロン湖に到達した。


もっとも、ヒューロン湖は南北に長い湖である。連合艦隊にとって、それを南下する道のりは長く、遥か遠くにいるであろう敵の所在地も把握できない。


しかし、それは敵も同じことである。まだ見えぬ敵を探りながら、連合艦隊は、湖の上空を進んでいく。


万が一、艦が轟沈した時を考えると、湖は、地上と比べると危険が大きい。艦に大きな穴が空いている場合、そこから浸水し、艦が、湖の藻屑と化す可能性がある。


また、浮いたとしても、エンジンは全て死ぬため、修理も困難になる。最悪、もう一隻新しい戦艦を建造した方が、低コストで済むこともあり得るほどだ。


「閣下、噂の敵新型兵器、『アルテミス』というやつは、本当にヒューロン湖にいるのでしょうか」


東條中佐が尋ねるのは、かねてより米軍が保有していると言われている、新兵器についてである。一部の噂では、この兵器は旧文明が造り出した兵器そのものだ、という説も嘯かれている。


「確かに、そのような兵器が存在する可能性はある。これまでも、帝国諜報部は、米軍の五大湖防衛の不自然さを指摘してきたからな」


「閣下も、この噂を信じるのですね。そのようなものは戯れ言と切り捨てるかと、思っていました」


東條中佐には、常に、現実主義的で、確実性を求める東郷大将は、このような噂を信じるタイプとは思えなかったのだ。


「なに、決して、噂を信じたのではない。ある程度の客観的な証拠に基づいて判断しただけだ」


「なるほど」


「まあ、現状ではそれがどんなものかわからない以上、我々は、ただ注意するしかないだろう。噂を無視することもないが、それを過度に恐れるのもまた、失敗だぞ、中佐」


「はっ、肝に銘じます」


今のところ、連合艦隊には新兵器に関する具体的な情報はない。よって、今できることと言えば、ただ警戒することだけだ。


さて、現在、連合艦隊は、戦艦を前面に出し、艦を横向きにしながら前進している。これは、水の抵抗を考えなくてもいい飛行戦艦ならではの飛びかたである。


これでもって、敵の湖上要塞に集中砲火を浴びせ、無力化を図るのが、連合艦隊の基本作戦である。


「敵を捕捉しました」


「それで、新兵器、とやらはあるのかね?」


ついに、大和は、レーダーの届く範囲ギリギリに、米軍を収めた。早速、敵情が詳かになる。


敵は、艦隊においては連合艦隊より少し劣る程度である。しかし、10基以上の湖上要塞を加えれば、その戦力は連合艦隊を上回るだろう。


そして、その湖上要塞の中に、奇妙な形をしているものがひとつあった。


「あれは、砲台か?3×3で9つ。しかも全てデカい………」


東條中佐が呟くのは、独特なその湖上要塞の様子である。湖上要塞には、巨大な艦砲が9門すげられており、それが均等に配置されている。


「大和、あれの口径を計れ」


東郷大将は、ここぞというときの優秀なAIを呼びだす。


「了解しました」


一瞬で、返事は返ってきた。


「78cmです」


「78、か。それは、噂になるわけだ」


どうも、これが噂の新兵器なのは間違いないようだ。その奇抜な見た目と、異常な火力の主砲は、世界中で話題になるだろう。


「閣下、あれならば、恐れるに足らないものです。78cmともなれば、射程は相当に短いでしょう。私達は、ただ、アウトレンジ攻撃に徹すればよい話です」


東條中佐は、噂を話題に上げた割には、実物は驚異ではないと言う。それは、78cm砲などというふざけた口径の砲は、当然ながら単射程と思われたからである。


更には、連合艦隊の方が遥かに上におり、その差も考えれば、まず、敵の射程に入る必要はないと思われた。


「そうだったらいいがな。あれの動向は、常に確認するように」


「承知しました」


しかし、逆に、東郷大将は不安げである。そもそも、使えない兵器を米軍がこんな前線に持ち込むかと考えると、答えは否定的なものにならざるを得ない。


そして、連合艦隊が、ついに、その湖上要塞を射程に収めようとしたとき、東郷大将の懸念は的中してしまったのだ。 


「敵、発砲!」


「なに、この距離でだと?」


東郷大将も、東條中佐も、一瞬その報告を疑った。しかし、その数秒後、彼らは敵の真価を知ることになった。


砲弾が飛んでくる重い音の後に訪れたのは、戦艦の甲板を撃ち抜く爆発音である。


「霧島被弾!落ちます!」


大和の艦橋から左を見れば、戦艦霧島が、炎をあげながら、湖に落ちていく。しかし、不幸中の幸いにも、エンジンは完全には破壊されていないため、霧島はゆっくりと湖に落ちていっていた。ひとまず、うまく着水すれば、乗組員は助かるだろう。


「全艦、散開し、敵の狙いをばらせ!」


東郷大将は、即座に艦隊を散開させる。常に不規則に動く敵なら、多少は狙いにくくなるであろう。


流星二号作戦は、早くも危機に晒されている。







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