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終末後記  作者: Takahiro
3-1_対ソ戦線
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日ソ会談Ⅰ

「大日本帝国天皇陛下、ソビエト共和国のジュガシヴィリ書記長です」


ジュガシヴィリ書記長は少し訛りのある日本語で言った。


「書記長閣下、ロシア語で話されよ。あえて我らに合わせる必要はありますまい」


と、天皇は言った。ここにいるような人間なら、ロシア語くらい解る。お互いに母国語で話した方が意思疎通もより正確に行えるだろう。まあ本当なら通訳を交えたいところだが、そんな余裕もなさそうだ。


「はっ。ではお言葉に甘えて」


そしてジュガシヴィリ書記長は以後はロシア語で話した。


「早速本題ですが、天皇陛下、このタイミングです。何の話かは見当がつくことでしょう」


「うむ。アラブ帝国が貴国に奇襲を仕掛け、我らとの講和の約束が反故にならないかということでしょう」


「確かにそれもありますがな、それよりも、貴国がこれを仕組んだのではないかと、我々は疑っているのです」


なるほど、そう疑われても無理はない。アラブ帝国と大日本帝国が裏で密約を結び、ソビエト共和国が日本との講和で油断したところを背後から突き刺そうとしたのだと。だが、勿論、そんな事実はない。


「なるほど。しかしそのような事実、断じて存在はしません」


「へ、陛下、畏れながら、ジュガシヴィリ書記長閣下との話は私がします故、陛下があえて彼と話されなくてもよろしいかと…」


と、原首相は言う。大日本帝国では、基本的に天皇が前面に出て自ら何かを行うということはない。儀式の際や外国君主の出迎えなどはするが、あくまでそう言った儀礼的な部分のみである。


今回のように完全に実務的な交渉ごとを現人神たる天皇が自ら行うというのは例がない。それはあくまで臣下の為すべきことなのである。


「ならん。何が為に朕は内政の説明、外交の説明を受けてきたのか?知識とは使う為にあるもの、違うか?」


「し、しかしながら、このような場面では我々が話をつけるというのが、帝国500年の慣例であります」


「ジュガシヴィリ書記長が大本営に直接連絡を入れたのは、最も早く帝国全体を動かせる組織と直接話したかったからであろう。従って、その目的に最も的確であるのは、天皇という機関であろう。何の為の立憲君主制か?」


立憲君主制とは、極めて切迫した事態や既存の例の応用では対処出来ない時、議会などは無視し、憲法以外には縛られぬ勅令を以て迅速に的確に対処する為にある。故に、今のような事態こそ、立憲君主制の真価を発揮し、君主が自ら交渉に当たるべきなのである。


「しかし、陛下は現人神にてあらせられます。帝国の面子と致しましても、陛下が敵国人と語らうとは…」


「神が交渉をして何が悪い。そもそも皇祖神、天照大御神すら、あたかも人と同じように振舞ってきたのだ。どうして朕はそのようではいけないのか?」


「そ、そこまで仰られるのならば、陛下にお任せ致します」


「うむ。して、書記長閣下、無為な時間を過ごさせてしまい申し訳ない」


そう、短い時間であったが、この議論の間ジュガシヴィリ書記長は蚊帳の外であり、ただ画面越しに首相と天皇の会話を眺めているだけであった。


「いえ、私の意図は正に陛下の仰った通りでありましたから、助かりました」


「そうか。しかし時間もない。先程も言ったように、我々がアラブ帝国と共謀したという事実は、絶対に存在しない。我が名においてそれを断言しましょう」


「陛下がそこまで仰られるのならば、そうであると信じましょう」


天皇が自ら言ったとなると、それが真実でなかった場合は大日本帝国ひいては大東亜連合の面子が丸潰れである。そして今上の天皇がそんなリスクを自ら冒すような愚かな君主でない以上、この言葉は真実なのである。


「しかしながら、これが帝国と貴国との講和を意味する訳ではないということは、書記長閣下もお分かりでしょう」


「ええ。重々承知しております。そして、そのように仰るということは、もう既に講和の放棄は決定されたということでよろしいですかな?」


「その通りです。帝国は、貴国へ更なる攻撃を仕掛けることを決定しました」


「なるほど。では単刀直入に言いましょう。どうか貴国は何もしないでいてくれないでしょうか」


その発言はなかなか衝撃的なものだった。一国の国家元首が敵国に対し戦争を仕掛けないでくれとただお願いしたのである。


「アラブ帝国軍は滅ぼさせてもらいますが、それ以上何をする気もございません。戦争が終わった後は、アラブ帝国自体は存続させ、アメリカ問題も現状維持と致しましょう。ヨーロッパ国についても、革命を起こさせた恩がありますから、我らの医師に従わせます。アフリカ帝国も同様です。この条件を以て、どうか我らとの講和に応じて頂けないでしょうか?」


ジュガシヴィリ書記長は一気に全てをまくしたてた。その様子からは、本来政治家が見せてはいけない焦燥が感じられた。だが、当の天皇は彼を静かに見据えていた。




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