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終末後記  作者: Takahiro
3-1_対ソ戦線
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奇襲の報

ここから第三部の始まりです。アラブ帝国が参戦し、いよいよ本当の世界大戦が始まります。

崩壊暦215年9月9日02:49


ヴォルゴグラードといのはカスピ海の北西にある都市で、アラブ帝国に面する都市でもある。


「エリョーメンコ少将閣下!起きて下さい!」


エリョーメンコ少将はヴォルゴグラード駐屯部隊の指揮官である。まあ一応仮想敵国に最も近い都市ということもあって、平時からここにはそれなりの部隊が置かれている。


そのせいで対日戦線に回せる戦力が減っているとの批判もあるが、これは万が一の奇襲に備える為には必要な戦力の分散である。


そう、奇襲など万が一にしか起こらない、その筈だった。


さて、少将の寝室に血相を変えて殴り込んで来た伝令の兵士。少将は叩き起こされる格好となる。


「何があったんだ?」


「アラブ帝国が奇襲を仕掛けて来ました!」


「は?もう一度言ってくれ」


まさか、まさかそんなことがある訳がない。戦争も終わり、曲がりなりにも平和が訪れようとしているこの時期に、国際法に違反した奇襲など起こる筈がないのだ。エリョーメンコ少将は、聞き間違えかと考え、兵士に聞き返す。


「アラブ帝国が、ヴォルゴグラードに対し、飛行艦隊を以て、奇襲攻撃を仕掛けてきたのです!」


「本当、か?」


「はい!既に南方300kmに敵艦隊を確認しました!」


「わかった。直ちにモスクワに連絡、ヴォルゴグラード全域に警報を発令、全軍戦闘配置につくよう伝えよ」


「はっ!直ちに!」


深夜も深夜だが、軍人には関係ない。直ちにヴォルゴグラードの将校が集められ、緊急の軍議が開かれることとなる。


「敵の戦力を報告せよ」


「はっ。現在確認されたものでは、3個飛行艦隊、それに付随する輸送艦がヴォルゴグラードに一直線に向かってきております」


現在ヴォルゴグラードに駐屯しているのは1個飛行艦隊のみだ。精々時間稼ぎ程度しか出来ないだろう。状況は絶望的である。


「クレムリンからの報告は?」


「直ちに2個飛行艦隊を送るとのことですが…」


「間に合わないか」


まずモスクワからここまでは1000kmを超える距離がある。また向こうの飛行艦隊とて今すぐに出撃出来る訳ではないだろうから、彼らが戦闘に参加するのは期待しない方がいい。


これはソビエト共和国が広すぎるが故の弊害と言えるだろう。


「か、閣下!緊急の連絡です!」


伝令の兵士が扉を叩き割る勢いで開きノックもないまま入ってきた。ただ事ではないのは確かだ。


「何だ?言え」


「はっ。アラブ帝国はヨーロッパ国とアフリカ帝国にも奇襲を仕掛けてとのことです!」


「何だと?自滅でもする気なのか?」


戦争や内線を経ているとは言え、アラブ帝国がこの三国を相手取って勝てるわけがない。それは一見自爆行為のように思える。だが、一般論からして、国家が自殺を選択する訳はない。つまりこれは深い意図を以て行われた奇襲ということになる。


「どういう目的なのでしょうか?」


「いいや、それを考えるのは後だ。今我々は目の前に迫る3個艦隊をどうするかだけを考えるべきだ」


アラブ帝国がヨーロッパ国と戦争をしようが、ここに何ら影響が出る訳ではない。戦略について考えるのはモスクワの人間にでもやらせておき、今はヴォルゴグラードを如何に守るかだけを考えるべきなのである。


「しかし…戦力が違い過ぎるな…」


本来、弱音を吐くというのはあらゆる面で悪影響しかないから控えるべきである。だが、こうも酷い状況だと弱音の一つは吐きたくなってしまうのが人というものだ。


「閣下、申し上げにくいのですが、ここはヴォルゴグラードから飛行艦隊を撤退させることを提案します」


「市民を見捨てろというのか?」


「いえ、その、最終的な勝利の方が優先されるかと」


飛行艦隊がなくとも時間稼ぎは出来る。しかし飛行艦隊がなければ反撃は出来ない。どうせ落ちるヴォルゴグラードの為に飛行艦隊を消耗するのは愚策だ。


ここは地上での抵抗のみで時間を稼ぎ、後方で味方の増援と合流、反撃に出てヴォルゴグラードを奪還するのが最良の選択だと思われる。


「それが恐らく最良だが、ここを見捨てるというのは…」


「閣下、我々に与えられた任務は、ヴォルゴグラードの防衛もありますが、それ以上に祖国の防衛があります」


「祖国を守る為に都市を捨てろというのか?」


「はい。部分を切り捨て全体を守るのは、戦争でも政治でも常道かと思われます」


「そうか。そうだよな…」


エリョーメンコ少将は、一言で言って優柔不断だった。自らの任地を殴り捨てるという決断は、彼には重すぎた。


「そうだ、まずは取り敢えずモスクワに聞こう。クレムリンに繋いでくれ」


「ですが閣下、それで撤退が間に合わなくなります」


「飛行艦隊は全て上空で待機させ、給油艦も全て上げておけ。撤退するとなればいつでも撤退出来る準備をしておくんだ」


「はっ」


そこは有能なエリョーメンコ少将であった。そして通信する相手はお馴染みのジュガシヴィリ書記長閣下である。

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