要塞空爆
崩壊暦214年7月4日03:35
「敵戦闘攻撃機、出撃しました」
「ああ、湖上要塞のニミッツ大将に、迎撃の準備をさせろ。それと、戦闘攻撃機部隊は、出撃の支度をせよ」
この少し前、日本艦隊の戦闘攻撃機部隊が突如、行動を始めたという知らせがあった。そして、すぐに戦闘攻撃機が飛んでくるとの報が届いたのだ。
しかし、現在米艦隊の下で並走している湖上要塞には、多数の高射砲とともに、多くの対空砲、対空ミサイルが配備されている。
そこに飛び込むのは、自殺行為としか思えない。
「敵の高度がやけに高いな。目標は艦隊か?」
「申し訳ありませんが、私にも判断しかねます。どちらを狙おうと、敵に利があるからです。ひとまず、航空部隊で艦隊上空を、湖上要塞で艦隊下方を固めるのがよいでしょう」
日本航空戦隊は、要塞を攻撃するには妙に高い位置を飛んでいる。高所では、艦隊からの対空砲火にも晒されるから、チャールズ元帥には、その動機は今の所理解できない。
すぐに、日本軍は艦隊に近づいてきた。しかし、高度は高いままであり、しかも艦隊とほぼ同じ高さを地面に平行に進んでいる。
「全艦、全要塞、迎撃せよ。航空艦隊は出撃せよ」
チャールズ元帥の静かな号令の後、湖上と空中から、一斉にミサイルが放たれた。白煙が空域を覆い尽くすが、しかし、その中を日本軍機は突破してきた。
まだ、対空ミサイルの射程距離より少し短い程の距離がある。迎撃の効果は限定的だ。
「直掩隊は、艦隊上空で待機せよ」
チャールズ元帥は、あくまで敵の殲滅を目指すわけではない。スペリオル湖では、防衛さえできれば問題はないのだ。故に、最も堅実な防衛戦を行う。
「敵接近。ん……高度が、艦隊と全く同じで突っ込んできます!」
「なんだと。今度こそ本当に特攻でも仕掛ける気なのか?」
「直掩隊を艦隊前面に展開し、迎撃させろ」
日本軍機は、一切高度を変えず、米艦隊に接近してきている。チャールズ元帥は、戦闘攻撃機を動かし、艦隊の日本軍側のの正面で迎撃を指示した。
しかし、結果は思いもよらぬものとなる。
「な、戦闘攻撃機を無視してこちらに来るだと。全艦、直前の敵を迎撃せよ!全ての装備の使用を許可する」
日本軍機は、打って出た米航空艦隊を完全に無視し、米艦隊に突撃してきたのだ。勿論、それに対し米艦隊は、弾幕を張って対応する。
しかし、更に予想外の事態が起こる。
「な、下に行っただと!戦闘攻撃機部隊に追わせろ!」
日本軍機は、艦隊の下に潜り込んだ。そして、すかさず無数の爆弾を要塞に落とし始めた。
湖上要塞のあちこちから、爆炎が立ち込め、その様子は、第一次世界大戦の時に空爆された都市のようである。
湖上要塞は沈みはしないが、表面に構造物は容易に壊されてしまう。
「閣下、直掩隊が敵を攻撃できません!湖上要塞もです!」
「は?どういうことだ?」
「閣下、敵は艦隊のすぐ下にいるのです。対空ミサイルや高射砲が艦隊に当たってしまう可能性が高いため、迎撃ができません」
ハーバー中将は、現状を簡潔に告げた。艦隊と日本軍機が近すぎて、何も撃てないのだ。
「そういうことか。ならば、直ちに艦隊を散開させよ。兎に角、艦と艦の間を開けるんだ」
チャールズ元帥は、すぐさま艦隊に散開するよう命じた。
今なお、日本軍は、我が物顔で空爆を続けている。直掩隊は追ってはいるが、手は出せない。高射砲など、もってのほかである。
そんな危機的の状況下、チャールズ元帥の命令通り、艦隊の間が開いていく。同時に、その隙間を通りかかった日本軍機に対し、無傷で残っている高射砲が火を噴く。
同時に、本格的の航空戦も始まった。両軍とも、狙いを敵機に定め、機銃とミサイルを放ち始める。たちまちに、米艦隊周辺は、砲弾と戦闘攻撃機が入り乱れる戦場と化した。
戦闘攻撃機の数は、殆ど同じである。しかし、対空砲火がついてある米軍の方が、優位となった。
「敵、徐々に後退しています」
「追撃はさせるな。対空砲火のみ、継続せよ」
ついに、作戦を破られた日本軍は、撤退の兆候を見せた。徐々に、湖上要塞の上空から離れつつある。しかし、それは負けたからではないから、日本軍は十分に組織的に行動している。追撃も危険なのである。
「帰ったか」
5分もすると、日本軍機は完全に、米艦隊から去っていった。チャールズ元帥の対応は、功を制したと言えるだろう。
しかし、散々に爆撃された湖上要塞の被害は甚大である。両軍にとって、後味が悪い一戦であった。




