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終末後記  作者: Takahiro
2-11_極めて短い戦間期
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帝国国策大綱Ⅰ

崩壊暦215年8月17日14:21


「ですから、今こそソビエト共和国との和平を目指すべきなのです。アメリカが降伏した今、彼らが講和に応じる可能性は高い」


と主張するは原首相。 大本営で軍部と政府が激論を交わしているのは、未だ継続しているソビエト共和国との戦争をどう終わらせるかについてである。


「馬鹿を言え!東部戦線の消失した今ならば、奴等を完膚なきまでに撃滅することも叶おう。向こうから降伏の意をつたえてくるのならば受けてやるが、優勢な我々が講和を申し込むとはなんたることか!」


と強硬策を主張するは陸軍大臣。どうせやるならソビエト共和国を支配下に置くまでやらねば帝国の利益は適わまいというのが彼の主張である。


ちなみに、海軍の方は中立的な立場である。


「では陸軍大臣、仮にモスクワを占領したとしましょう。そうして何をするのです?」


「ソビエトに領土の割譲、賠償金の支払い、軍備の縮小を命じるまでだ」


「なるほど。少々言いたいことが多いのですが、ええ、まず領土の割譲など必要ですかな?」


「領土は奪わんと気が済まんだろう」


「そんな理由で?はっきり言って新領土など帝国の益にならないでしょうし、寧ろ帝国にとっての負担になりましょう。わかっておられるか?」


どうせ取れるとしてもシベリアの都市だけだろうし、そんなものを割譲させたとしても大した利益にはならない。それどころかそこの住民を懐柔する負担の方が利益に勝るだろう。まず領土の割譲は必要ない。


「しかし、土地を取らねば何を取る?」


「さっき大臣も言っていましたが、現占領地の返還と引き換えに金を搾り取ればいいのです。そちらの方が、シベリアの痩せた土地よりも遥かに有益でしょう」


「しかし、それならば尚更戦争を邁進した方がよかろう。その方が毟り取れる金も増えるはず


「そうとも言えませんな。戦争を邁進し、ソビエト共和国の経済を壊滅させてしまえば、彼らが金を払えなくなってしまいます」


賠償金を搾り取る時、当然のことだが、その相手にそれなりの国力が残っていなければ支払いは期待できない。仮に講和条約が遵守されたとしても、帝国が手に入れるのは紙切れも同然の新札の束であろう。額面は巨大だが、実際の価値は皆無に違いない。


そうなるよりは、まだソビエト共和国が機能しているうちに講和し、可能な範囲の賠償金を手に入れる方が良い。


「なるほど。確かに、首相閣下の言うことの方が理があるようだ…」


「わかってもらえたのなら、何よりです」


「しかし、我々から講和を申し込んでは、帝国に全く余裕がないと思われはしないだろうか?」


陸軍大臣の懸念はもっともなもので、原首相も確かにそうなることを考えている。帝国に戦争遂行の余裕がないと認識され、ソビエト共和国の態度が大きくなる可能性についてだ。


「確かに。ですが、それでいいではありませんか」


「首相、帝国の尊厳を何だと心得るか?」


「もちろん私とて帝国を第一の考えておりますよ。ええ、つまり、帝国は既に北米という巨大な利益を手に入れたのですから、これ以上の拡大は危険ではないかと申しているのです」


別にソビエト共和国に何の条件も突きつけずに講和をしたとしても、北米全域を勢力圏に入れた今、帝国の影響力が世界最強のものとなったことに相違はない。大東亜連合が享受する利益は既に十分に巨大である。


しかし、これ以上の拡大は、大東亜連合以外の勢力の団結と反帝国戦争の勃発をも招きかねない。それは帝国の国益に反する。


「くっ。理解した。どうやら私は陸軍軍政以外に手を出すべきではないようだ」


「わかってもらえたのなら、はい」


「山本中将、参謀本部はどう考えているのだ?」


陸軍大臣は参謀総長の山本中将に問う。


何故か政府と陸軍省だけの話し合いになっていたが、大本営には他に参謀本部と軍令部が参加している。もっとも、慣例として彼らはあまり政治に口を出さないが。


「参謀本部は、政府の意向を実現する組織です。陸軍省も政府もソビエト共和国との講和を考えておられるのなら、我々はそれに従います」


「了解だ」


「それはありがたい」


その後、元老院にも軍令部にも反対意見は出なかった。よって大本営は最後の行程を踏む。


「では、陛下。ソビエト共和国との早期講和について、ご裁可をお願い申し上げます」


「ふむ。良い。帝国の利益は我が望みである」


「はっ」


天皇もこれを承諾し、西部戦線に関しては出来る限り早い終息を目指すということで、各部署は動き出した。


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