表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末後記  作者: Takahiro
2-11_極めて短い戦間期
613/720

アメリカ連邦における戦後処理Ⅰ

新章スタートです。初っ端から政治的に危ない話題で始まります。

また、今章は珍しい戦争をしない章でもあります。

崩壊暦215年8月15日09:12


さてここは大日本帝国陸軍が飛行戦艦金剛の艦橋である。今日ここには高級将校や高級閣僚、および警備兵が多数集まっている。


そしてその中を重々しく歩くのはニミッツ大将と数名の将校である。チャールズ元帥が亡命した後、彼がアメリカ連邦軍を率いている。もっとも、アメリカ連邦軍とは言うものの、今や飛行艦の一隻も持たない自警団程度の存在に過ぎないが。


さて艦橋には椅子と机が一つずつ、ペンも備え付けてある。


「大将閣下、こちらへ」


日本軍の将校は彼を丁寧に案内する。敵将とは言えこのように遇するのは軍人として当然のことである。やがてニミッツ大将は椅子に座り、ペンを手に取った。


「はあ。まさかこうなるとはな…」


溜息を吐きながらも彼はそこに用意されていた文書に丁寧に署名した。そう、それはアメリカ連邦の無条件降伏を記した書面である。彼がそこに署名することにより、アメリカ連邦の降伏は完全に確定されるという訳だ。


そして彼はさっさと帰ろうとするが、そこに伊藤中将が現れた。


「ニミッツ大将閣下」


「伊藤中将か。何の用だ?」


「つれないですね。まあ少しばかりお伝えしたいことがありまして」


「と言うと?」


「ここでは話すのも微妙でしょう。少しお時間を頂いても?」


「構わんが」


降伏もした以上ニミッツ大将にすることもない。彼は伊藤中将の行く先についていった。やがて彼らが着いたのは、日本軍が接収したレストランである。まあ軍がわざわざ接収するだけあり、かなり立派な店である。


「食事代は我が軍が出しますから、ここでお話ししましょう」


「私もそこまで貧乏じゃないんだが」


「まあまあ。そこは素直に奢られて下さい」


「そうか。ならそうしよう」


実際、ここワシントンでは軍票が大々的に使われており、ここでいくら高級料理を頼もうと、伊藤中将が困ることはないのである。


彼らは席に座った。


「さて、まずは戦犯の取り扱いについて、報告が少々あります」


「戦犯か。私は絞首刑か何かかな?」


戦犯、戦争犯罪人を裁くのは勝者の特権である。敗戦国の戦犯は戦勝国の都合のいいように裁かれ、戦勝国の犯罪者は何をやっても裁かれない。それは当然この戦争でも起こるだろう。


「まあ、簡単に言いましょう。今回の戦争、帝国政府は一切の戦争犯罪人を裁かないことを決定しました」


「何だと?」


ニミッツ大将にはそれは信じられなかった。予想の正に真逆のことだった。今日がエイプリルフールなのかと疑うくらいであったが、全くそんなことはない。


「何故だ?」


「まあまず、戦争発起人の多くが逃げてしまったことがあります。そもそも裁くべき人間がいない。閣下とて、当時は最高司令官でも何でもなかったでしょう」


「確かにな」


確かに最も裁かれていたであろうチャールズ元帥などはアフリカへ亡命した。とは言え、一般的に基準で考えれば、ニミッツ大将も戦犯のリストに加わっているだろう。つまりこの決定の理由がこれだけである筈がない。


「また第二に、アメリカ帝国の首班にルーズベルトを登用してしまったことがあります」


「奴か」


「ええ。まあやった当時は名案だと思ったんですが、今になって、奴を戦犯容疑で裁けないことに気付きましてね」


なるほど、あれだけ帝国の正当性を訴えるプロパガンダをしておいてルーズベルト皇帝は裁けないという訳か。戦犯のリストではまず間違いなく一番上に載っていたであろう彼が無罪放免となると、他の者も裁けないと。


「まあそういう政治的な理由があるんですが、他にもう一つ理由はあります」


「政治的ではない?」


「ええ。簡単に言うと、天皇陛下が不正義を犯さないように帝国軍全体に勅命を下されたのです。まあもちろん陛下が独断で決められた訳ではないでしょうが、そのお言葉の前には誰も逆らえませんから」


しかしニミッツ大将は疑問を抱く。そもそもアメリカ連邦の将校や政治家を裁くのが不正義であるとは思えなかったのだ。戦勝国にしてみれれば敵国の人間はそもそも悪であり、それを裁くのは正義である筈だ。


「不正義、とは?」


「簡単です。それはつまり、法に従うことです。帝国は絶対の法治国家であり、その原則は外交でも一切曲げてはならないと」


「なるほど。その理屈は理解した」


戦争を禁ずる国際法は存在しない訳で、如何に不合理な侵略戦争であっても、それを起こしたこと自体は罪ではない。もっとも、歴史上ではその理屈が通ったことの方が少ないが。


「日本軍は、そこまで高邁な精神を持っているというのか?」


「ええ。我々は天皇陛下の軍隊。道義に背くような真似は出来ません」


「しかし、本当にそれでいいのか?」


妙な話だが、ニミッツ大将は逆に日本のことを心配してしまうのだ。こういう時は適当な罪状をでっち上げて敵国の指導者を処刑なり何なりするのが常道だ。実際、アメリカもずっとそうしてきたのだ。


だが日本軍はそれをしないという。反対に、ロクに守られない国際法に則った行動をするというのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ