ある少女の記憶IV
サブストーリーです。
その日、少女は巨大な湖に直面した。
しかし、彼女にはそれが湖なのか海なのか、見た目では見当がつかなかった。一応の知識として、確かにここら辺に湖があったのは覚えている。
しかし、その記憶は曖昧そのものだ。地理など、昔習っただけだからである。
「デカすぎる。ホントに湖?流石に泳ぐのは無理そうだから、とりあえず沿って歩こう」
少女は、とりあえず歩くことにした。途中で都市を見かけたが、閉ざされた都市に、彼女は近づかなかった。
そして、何日も歩き続けた果てに、恐らくは湖の反対側と思われる場所に来た。ここから太陽のもとに向かえば、湖を突っ切ったように進めるだろう。
「なんか、いっぱい飛んでるな」
左を見ると、別の巨大な湖の上空で、数多くの飛行戦艦が砲火を交わしていた。しかし、少女には、その様子は追いかけっこをしているように見えた。
それを眺めつつ、ひたすら少女は歩く。
しかしそこで、少女は、これまでで一番危険そうなものに遭遇した。
「そこの君、ちょっといいかい?」
少女に話しかけたのは、眼鏡をかけた初老の男であった。
「あ、あの、なに?」
少女はたどたどしく、一応は男に応えた。
まあ、傍目から見たら、犯罪の図である。
「別に用はないんだがね。ただ、ヒトを見るのが久し振りでね。声をかけただけだよ」
確かに、こんな世界で人間に会ったのだ。声のひとつはかけたくなるのは、当然だ。
「ああ、そうゆうことね。そういえば、ボクも久し振りだな。よろしくね」
「こちらこそ」
何ら退くことなく、自然と返事をしてきた少女に対し、男は、少しだけ困惑した様子を見せた後言った。
「ところで、君の名前は何ていうんだい?」
「ボク?ボクは、コウ。おじさんは?」
「私は、石井史郎という。そうそう、一つ頼みがあるんだが、いいかい?」
「うん」
少女は、少しとぼけたように頷いた。
「もしも、近衛という男にあったら、こう伝えてくれ。石井が言っていた。あれを見てくれてありがとう、と」
「わかった。もし会ったら、伝えておくね」
そして、石井は更に問いかけた。
「あそこに、飛んでいる飛行戦艦が見えるだろう?」
「うん」
「ヴェジント、サケフュト、ノーゼント………」
男は、唐突に、少女に知らない言語で、指差しをしながら戦艦を数えだした。
「う、うん?」
当然ながら、未知の言語を物凄い速度で並べたてる石井に少女は困惑し、素っ頓狂な声を出してしまった。
「ああ、すまんね。君らの言語で言えば、10、20、30と数えていただけだ」
「へえ、そうなんだ」
少女は、疑問符を浮かべたままであるが、一応は納得した。しかし、その返事は、どこか空返事のようであった。
「それはそうと、どうして、ヒトは都市に立て籠っているはずなのに、あれほどの資源を用意できるか、君は考えたことはあるか?」
男は、唐突に話題を切り替えた。
「う~ん、さあ、どうしてだろうね」
少女には、その理由はさっぱりだった。
「ふっ、まあ、いいさ。いずれは、君もそれを知るだろう」
「そう」
「それでは、ここらで私は失礼するよ。さようなら」
「さよなら〜。」
二人は、別れを告げると、再び別々の方向に歩いて行った。
この子はボクっ娘であると判明しました。




