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終末後記  作者: Takahiro
2-10_アメリカ連邦の抵抗
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ニューヨーク近郊にてⅡ

「そうだな、まず結論から言おうか」


「何だ?」


「元帥と私は、共に民主主義の破壊を目指したのだ。元帥はクーデタという手段によってそれを目指しただろう?」


少なくともチャールズ元帥の目指したところについてはそれで正解である。民主主義とやらが時代遅れの遺物であるのは最早事実であると言ってもいい。


「しかし貴様はただ自分の保身の為に日本に裏切っただけだろうが。貴様は、ただ権力が欲しかっただけだ」


「それは甚だしい誤解だな。私は、自らが犠牲となることによって、アメリカをより良い社会にしようとしたのだ」


「では、まさか戦争を起こしたのはアメリカ連邦を破壊する為であったと?」


ルーズベルトが自分の国を破壊する為に戦争を起こしたと考えれば一応論理は通るが。


「その通りだ。私はアメリカ連邦を敗北させ、日本に支配させることによって、アメリカに君主制を導入することを思い付き、実行した」


「ならば、私は負ける為に戦っていたと言うのか?」


「そうだ。それに関しては、すまないと思っているよ。だが、これは、世界を欺く為に必要な犠牲だったのだ」


これか保身の為の嘘か本心かを明確に判断することは出来ない。仮に本心だとすると、大義は彼にあるのかもしれない。だが、チャールズ元帥が怒るのはその点についてではない。


「私の部下たちは、何の意味もなく死んだというのか?」


「そうだな。結果からすると、そうなるかもしれないな」


「貴様、人の命を何だと思っている?」


「とても貴いものだと思っているさ」


「は?何を言う」


ルーズベルトのせいで何万もの兵士が無意味に死んだのだ。それが祖国の為だと信じて。それを命じたクソッたれが「命は貴い」だと?


「元帥はまたも誤解をしているようだな。確かに、彼らの死には意味はなかったかもしれないが、アメリカ連邦が滅んだことは重要だ。それによって、未来永劫に渡って我々の子供たちは幸福を享受する。まあ、そう考えると、意味はあるか」


「クソッ。なめたことを…」


しかしルーズベルト皇帝の理論武装は強力だった。余りにも耳障りだったが、それは正論そのものなのである。しかし一点、決定的な欠陥があった。


「しかし、貴様は少なくともアメリカを裏切った」


「その通りだが?今更何だね?」


「いや、貴様は、アメリカ連邦を、ではなく、アメリカという国家を裏切った。貴様は日本の比護の下に悠々自適の暮らしを満喫しているではないか」


例え彼がアメリカのことを真に思う愛国者だったとしても、彼が日本に裏切ったことに変わりはない。仮に大日本帝国によって君主制が導入され、国民の暮らしが豊かになったとしても、それは内から生じた革命ではなく押し付けられた政体に他ならない。


「ほう。元帥はそういう民族主義者か」


「別段そのような思想を持っている訳ではない。だが、マトモな国民は、他国に政府を押し付けられるのを歓迎するか?」


「ああ。そう思うがね」


「何を根拠に?」


どう考えてもそれは受け入れ難い。革命は、やるなら自国の中で完結せねばならない。


「まあ当然、元帥のように、これを嫌うものも現れるだろう。だが、大半の国民は、大日本帝国のことを救世主だと思うだろうな」


「だから、何を根拠に?」


「簡単なことだ。まず大半の国民は根本的に政治に興味がない。いや、正確には、政治がどうあろうと、パンとサーカスさえあれば何も文句は言わない。それさえ与えてくれれば支持するし、それをより多く与えてくる政府はより支持する」


「だが、それでも政治を正しく認識し、アメリカ帝国とやらに異を唱える者も現れるだろう」


はっきり言って、ルーズベルトの主張にはチャールズ元帥も同意する。大半の国民などそんなものだ。アメリカが独立戦争の成果を殴り捨て、唐突にイギリスの植民地に復帰しても、それによって生活が損なわれないのなら、大半の国民は反対もしないだろう。


だが同時に、彼は全ての国民がそんな無能だとも思ってはいない。必ず、日本に押し付けられた帝政に異を唱え、立ち上がる者が現れるだろう。それこそ独立戦争の時のように。


「確かにな。現に元帥がそうだ。しかしそれは少数派だろう」


「だが彼らが種となり、いずれは帝政など崩れ去る」


「いや、彼らは単に危険思想の右翼として()()諸君に排斥されるだろう」


「ほう。だが貴様の理論で言えば、政治に無関心な国民は排斥すらしないのではないか」


例えばその右翼がより良い暮らしを国民に約束したとすれば、国民は彼らにつく。ルーズベルトの理論だとそうと考えられる。


「それは否定される。いや私が否定する」


「ほう?」


「やることは至ってシンプルだ。教育と宣伝。それにつきる。大日本帝国は救世主で、悪しき民主主義を破壊し、正義の帝政を造ったのだと宣伝すれば良いのだ。特に民衆は『否定』が好きだ。民衆に民主主義の悪なるのを力説すれば良い」


「この下衆が」


しかしチャールズ元帥は反論出来なかった。恐らくその試みは成功する。確かに否定に民衆は食いつく。民主主義を否定する教育、本来あってはならない形の教育を行えば、民衆はそれを容易に信じ込むだろう。


何か、某民主主義の兵器廠と某平和主義国家との間で見たことのある光景ですね。

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