状況打開策
崩壊暦214年7月4日2:15
「諸君、このスピードで行けば、スペシガンまで残り6時間なわけだが、このまま現状維持でいいかね?」
東郷大将は、少しおどけた調子で、幕僚に問いかける。大将自身、この血の気の多いクルー達ならば、何か攻撃を仕掛けたいだろうと、確信しているのだ。
そして、案の定、最も好戦的な者が名乗りを上げた。
「私の第一航空戦隊でもって、あの湖上要塞を沈めましょう!閣下、御裁可を!」
そう興奮気味に言うのは、神崎中佐である。
ちなみに、神崎中佐がこれまで指揮していた戦闘攻撃機部隊は、新設の航空部隊の一部に編成され、第一航空艦隊所属の、第一航空戦隊となった。しかし、神崎中佐本人としては、名前の格が下がったことは不満のようである。
神崎中佐は、最近は殆ど出番がなかったばかりか、五大湖でも攻撃の機会がなかった為、この話題に食いついてきたのだ。
「しかし、あの要塞相手は、いくら神崎中佐でも危険ではないかね?」
「確かに、あの上を飛ぶのは危険です。ですが、その上には敵艦隊がいます。そこで、その直下を飛ぶことで、敵の対空砲火を無力化することを、提案します」
神崎中佐が提案するのは、敵飛行艦隊の下スレスレを飛んでやろうという作戦である。下の湖上要塞の対空砲火は、必然的に上に向かって放たれる。その目標の上に飛行戦艦があれば、外れた砲弾やミサイルは、それに当たるだろう。
当然ながら、どこの国の軍隊も、フレンドリーファイアはしたくない。敵飛行艦隊の下を飛べば、対空砲火の減衰が期待できるだろう。
そして、神崎中佐の部隊は、悠々と空爆をすればいいという寸法だ。
「結構。良き策だ。何か、意見その他のある者はいるかね?」
「はい、閣下。出撃する戦闘攻撃機の数ですが、第一航空戦隊全機では多すぎます。敵飛行艦隊は、もとより数が少なく、その真下という限られた領域でおよそ250機の戦闘攻撃機が飛び回るのは、むしろ危険です。また、部下に試算させたところ、攻撃に相当な悪影響を及ぼすとの判定です」
東郷大将の問いかけに、東條中佐は答えた。
「確かに、そうだな。神崎中佐、どう思う?」
「そ、その可能性は、想定しませんでした。つい、サンフランシスコやカルガリーのような大艦隊を前提に……」
神崎中佐は、気まずそうに、苦笑いを浮かべて応える。
「まあ、よい。ならば、中佐の部隊から、第一から第三分隊を出すのはいいかな?」
「はい。問題ありません。少数精鋭ということですね!」
東郷大将は、第一航空戦隊をさらに分割することを提案し、神崎中佐は喜ばしげにそれを承った。
別段、東郷大将は単に、最も現実的な分け方を提案しただけで、特に神崎中佐を立てるきはなかったのだが、どうも神崎中佐は、謎の歓喜の表情で応えた。
もっとも、第一分隊から第三分隊が帝国軍の中でもトップクラスの実力の持ち主ではある。それは、実戦を経験した部隊が少ないからであるが。
「ははは、そうだな。それでは、この膠着状態を壊す乱鐘を、米艦隊に聞かせてやってくれたまえ」
「了解であります!」
神崎中佐は、いつもの通り、元気発剌な返事で東郷大将に応える。
かくして、喜びがにじみ出ている神崎中佐の提案は採用された。




