東條の作戦
メインストーリーは、ちゃんと毎日21時に更新します。
「サンフランシスコをレーダーに捉えました」
モニターにサンフランシスコ上空の艦隊、地上の設備の情報が映し出される。
「ほう、これは…」
東郷大将は呟いた。
米軍飛行艦隊は、飛行空母を中心とする旧世界の空母打撃群と似通った陣形をとっている。空母四隻と、その回りにおよそ60隻の戦闘艦が待ち構える。
その数は第一艦隊のおよそ二倍。サンフランシスコを守護せんと、堅固な陣形をもって悠然と佇んでいる。
「東條中佐、どう見る?」
そう東郷大将が呼び掛けたのは、彼の幕僚長である。
「旧世界の典型的な空母打撃群の延長でしょう。あくまで、艦載機でやりあう気と見ます」
これは、文明崩壊後初めての列国間の戦争である。それは、旧世界の戦いの延長となることは避けられない。
米軍もまた、旧世界の威光、かつて最強を誇った空母打撃群を忘れられないようだ。
「我が艦隊の空母は二隻、艦載機の数では負けています」
当初、帝国軍は敵空母を二隻と予想しており、また、その他の艦も少なめに見積もっていた。
「どうも、アメリカはサンフランシスコの防衛ができればいいらしい。他の艦隊は楽に都市を潰せるだろうな」
そう軽口を叩いているが、第一艦隊の状況は非常に芳しくない。航空戦力の不利は絶対的なのである。
「そうなると、望みは艦対空ミサイルと対空砲か」
「大和、敵機の撃墜はどれ程できるか?」
再び東郷大将は大和を呼び出す。
「味方艦隊と共同で事に当たっても、およそ1/5かと」
大和の試算は正確と定評がある。この様子だと、真正面からぶつかるのは負けしか待っていないようだ。
「東條中佐、何か策はあるかね?」
「一つ、あります」
東條中佐は極めて控えめに言う。
「はっきり言いたまえ」
そして、東條中佐は、少し息を吸うと、
「爆撃用の炸裂弾を使うのはどうでしょうか。炸裂弾の爆発力ならば、敵戦闘攻撃機の撃墜は可能やもしれません」
と言い放つ。
東條中佐の作戦案では、艦隊前方に炸裂弾を放ち、敵航空艦隊の漸減を計り、後に通常の対空攻撃を実施。これをもって航空戦力の不利を補うという作戦である。
どうしてこの作戦の提言が憚られたかというと、地上付近で爆発するよう設定された炸裂弾を敵戦闘攻撃機の付近で爆発させるのは、至難の技であると、ほとんど不可能であると思われたからである。
「どうでしょうか、大将閣下」
東郷大将も東條中佐と同じ懸念を持っているようだ。
「命中率を期待できるとは思えんが、やらないよりはマシだろうな」
「他に意見のあるものは?」
やはり沈黙が訪れる。
その時、大和が唐突に沈黙を破った。
「私の火器管制システムならば、十分な命中率を出すことが可能かと」
「ん?具体的には、どうすると?」
東郷大将は尋ねる。
「敵戦闘攻撃機の速度と針路、炸裂弾の速度から最適な時間を計算し、発砲します」
大和の唐突な発案は、なるほど、真っ当な意見だ。幕僚の間にも、賛成の声が上がる。
「大和、それならどれくらい墜とせるか?」
少しの間をおいて大和が答える。
「およそ1/3かと」
これならば、今回限りの一発芸だが、航空優勢は確保できる。サンフランシスコの空港からの増援の襲来までに敵航空戦力を殲滅すれば、数的優勢は確保されるだろう。
「時間はない。これに懸けよう」
かくして第一艦隊の作戦は急場に決定された。
実は、東郷大将も、この策は思いついていたと、後に語っている。
登場人物の名前が露骨ですね。




