国防会議
さて、アメリカ連邦を取り巻く情勢は今や確定された。味方はソビエト共和国の遠征部隊、敵は日本軍の東方方面軍と欧州合衆国親衛隊の残党である。
「まず、私から作戦案を語ろう」
国防会議はチャールズ元帥の言葉によって始められた。
「まず簡単に言うと、まず全艦隊を以て欧州合衆国親衛隊をほぼ無傷で殲滅。その後、日本軍と正面から殴り合い、これを撃退、もしくは殲滅する」
敵は東西から来る。つまり向こうから分断されてくれたも同然だ。これを各個撃破するのは王道のようなものだ。欧州合衆国艦隊さえ潰せば、ソビエト共和国軍と合わせて、彼我の戦力は互角となる。
ただ、そこに一つ、余りにも致命的な問題がある。
「それはつまり、西部の防衛を放棄する、ということでしょうか?」
ニミッツ大将は困惑した様子で問うた。
まず、欧州合衆国の残党は、残党とは言え無視は出来ない戦力を保有している。これに圧倒的な優位を確立するには、こちらの全艦隊を差し向けなければならない。
また、ここで言う各個撃破とは、世界地図で見てもわかるくらいには巨大な規模のものだ。東に回した部隊を西に戻すのにも相当な時間がかかる。
つまり、欧州合衆国親衛隊と戦っている間、日本軍との前線は完全に放棄する格好となる訳だ。当然、ここ、ワシントンも裸城となる。
「そうだ。西部に関しては、地上戦を主体とする死守戦術によって時間を稼ぎ、その間に欧州合衆国軍を殲滅する」
確かにそれは幾度となくやってきた戦術だ。飛行艦隊とて永遠に空に留まれる訳ではない。都市を制圧し順次橋頭堡にしていかなければ、進軍に係る危険が大き過ぎる。よって、都市での抵抗は、飛行艦隊による進軍をくい止めるには有効な策ではある。
「しかし、それは同時に、我々が都市を使えないということも意味しましょう」
ハーバー中将は言う。
地上戦による抵抗の場合、確かに敵に橋頭堡は与えていないが、制空権が握られているのもまた事実だ。即ち、こちらの橋頭堡が失われるのは回避し得ない。
「問題ない。我々にはまだニューヨークがあるじゃないか」
「ワシントンは捨て駒にされると?」
「そうだ」
これには緒官僚、軍人も猛反発だ。ワシントン、アメリカ連邦の首都をむざむざと敵に渡してたまるものかと。しかしチャールズ元帥は真っ向からそれに反論する。
「静粛に。いいか、首都と国家、どちらの方が重い?首都あっての国家か?国家あっての首都か?後者が正解に決まっている。国家、政府の存続こそ我々の唯一の債務だ。ですよね、ドーズ大統領?」
なかなかずるいやり方だが、チャールズ元帥は側に座るドーズ大統領を利用することにした。もちろん、大統領が元帥に歯向かうことなどない。
「あ、ああ。ワシントンよりアメリカの方が、守るべきだ」
「とのことだ。しかしワシントンを占領すれば宣伝にはなるから、日本軍はここを狙ってくるだろう。囮としてはかなり優秀だ」
「しかし、閣下、ワシントンもニューヨークも占領される事態にはならないでしょうか?」
確かに、そうなったらアメリカ連邦はお仕舞いだ。
「確かに、それは私も考えた。そしてそれを防ぐ手立ても考えた」
「と言うと?」
チャールズ元帥は不気味な笑みを浮かべる。
「我々から仕掛ければいいのだ。我々からグリーンランドに殴り込みに行けばいいのだ。日本軍が準備を整える前にな」
「か、閣下、本気ですか?」
まさかこちらから仕掛けるとは誰も思いやしなかった。再び辺りの人間が騒ぎだす。
「しかし諸君、どこに、防衛側がうって出てはならないという法がある?ここに引き込もって殲滅されるのを待つのは、少なくとも私はごめんだがな」
理詰めで考えれば、何も間違ってはいない。
陸での戦争なら陣地を作って立て籠った方が有利に立てるが、飛行艦隊同士の戦争には防衛も攻撃も関係ない。旧文明時代の古いドクトリンは捨てねばならないのだ。
「そうなると、いつ出撃するおつもりでしょうか?早い方が良いでしょうが」
ハーバー中将は問う。とは言えあまり選択肢もないが。
「今すぐだ。今から艦隊の準備を始め、日本軍がカナダ方面に展開する前に、速攻でグリーンランドを落とすぞ」
「やはりそうなりますか。私は賛成ですよ」
まあこれ以外に勝てる戦略もなかった。チャールズ元帥の提案はほぼそこまま通り、艦隊の準備が開始される。
とは言え、地上部隊の準備も必要なく、燃料は後続とすることで、準備は24時間とかからず終わった。
今、前代未聞の反撃作戦が始まろうとしていた。




