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終末後記  作者: Takahiro
2-10_アメリカ連邦の抵抗
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「独立」宣言

崩壊暦215年8月3日14:23


アフリカでの戦争が終結を迎えた頃、アメリカでの戦争も終結を見つつあった。また、それに先立ち、日本軍による勝利宣言とも言える条約が結ばれた。


それに署名したのは、ルーズベルト元アメリカ連邦大統領と原首相である。そして、その条約の名はサンフランシスコ平和条約である。


既に大日本帝国はアメリカの占領地に対して一定の自治を与えており(与えざるを得なかったとも言える)、当然そこに自治政府も存在した。


今回の条約では、その臨時的な措置を廃し、正式に新たな国家を建設することが定められた。


挿絵(By みてみん)


「アメリカ連邦の市民諸君、私は今日ここに宣言する!今日からアメリカは、新たな国家、アメリカ帝国として再出発すると!」


と、元アメリカ連邦大統領が言うのだから滑稽なものだ。もっとも、ルーズベルト()()に恥などという概念はないだろうが。


「我々はこれまでに大いなる苦しみを受けてきた。それは何故か。それは、アメリカが民主主義という不完全な政治形態を取っていたからなのだ。私は戦争の回避、和平を目指したが、面倒な議員や閣僚、軍人のせいで、それも叶わなかった。よって、民主主義は破壊され、アメリカは、絶対的な権力を持った一人の指導者が牽引する国家とならなければならない!」


まあその主張するところ自体は間違ってはいないのだが、根拠は嘘っぱちである。とは言え、もうそろそろ滅ぼす国家の軍人の悪口を言ったところで誰も言い返せはしない。


「ええ、我々大日本帝国と致しましても、君主制が広く世界に広がることを庶幾するものでありますので、更正アメリカの誕生は、心より祝福しております」


原首相も皇帝の横に並んでいる。まあ彼の声からはやる気と言うものが感じられなかったが。


「両国が今後一層の友誼を育み、共に成長することを祈っております」


最後に両名は恭しい握手を交わし、アメリカ帝国の建国宣言は終わった。


さて、その様子は全世界に中継されていた。もちろん、嫌がらせの為にアメリカ連邦の残存領土にも。


「あいつが皇帝だって?」


「面倒な軍人」の一人であるチャールズ元帥は、新皇帝を侮蔑した声音を隠さない。


「そのようです。とは言え、戦勝国の政治体制が敗戦国に押し付けられるのは歴史の必然でしょう」


ハーバー中将はあくまで冷静であった。確かに、日本の占領下で帝政が開始されるのも無理はない。だがチャールズ元帥が言いたいのはそういうことではないのだ。


「帝政自体はいいんだ。私とてそれに近いことをやっているからな。だが奴が、アメリカ連邦を守り抜くとか言っていたルーズベルトが皇帝に即位するのが許せないんだ」


「なるほど。そういうことですか」


ハーバー中将はちっとも恨みの類いを抱いておらず、チャールズ元帥の意図を察するのが非常に遅れてしまった。


「逆に中将は何も思わないのか?」


珍しく、チャールズ元帥はハーバー中将が理解出来なかった。


「ええ。彼が国など気にせず私利私欲の為だけに動いているのは前々から知っていましたので、特に驚くことも怒ることもありませんでした」


「そ、そうなのか。そうか…そう思えば、無駄な怒りを覚えずに済むのか」


チャールズ元帥は妙に納得した。


「あくまでゴミを見るように彼を見ればいいのです。そこにゴミが転がっていたとして、確かにそれは不快ではありますが、怒りなどは覚えないでしょう」


「ははっ、お前も案外言うじゃないか」


「ただ合理的なことを言ったまでなのですが」


「まあいい。こんな下らん話は止めよう」


実際、彼らに余裕など全くない。今や北アメリカ大陸の85%はアメリカ帝国の占領下にあり、チャールズ元帥は東海岸の僅かな地域を保持しているに過ぎない。アメリカ合衆国独立の時の13州より狭いのだ。


「この宣言をこのタイミングで出すということは、そろそろ我々を滅ぼしにかかってくるということか」


「はい。恐らくは」


「ここで負ける訳には、いかんな」


まだ望みがない訳ではない。アメリカで最重要の都市であるワシントンとニューヨークはまだこちらの手の内にある。戦争継続は十分可能だ。


しかし、そう意気込んでいて元帥のところに、極めて悪い報せが飛んできた。


「閣下、大変です!」


ニミッツ大将が扉を勢いよく開けて入ってきた。


「どうしたんだ?」


「欧州合衆国軍が我が国への侵攻への備えを始めたとのことです!」


「は?奴らが?そんな馬鹿な…」


欧州合衆国という名だが、彼らが領有しているのはグリーンランドだけである。ヨーロッパ大陸を失った彼らの生産力はほぼ皆無、生き延びた2個艦隊のみがナチス・ヨーロッパに怯えながら引きこもっていた筈だ。


「いえ、確実な情報です。間違いありません」


「ああ、取り敢えず、詳細を教えてくれ」


何が何だかわからないが、チャールズ元帥は取り敢えず話を聞いてみることにした。

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