特攻隊Ⅰ
そしておよそ2時間後。
「今ので201発使ったぞ。どうする?少将」
「そうですね、ここら辺で切り上げましょう」
「了解だ」
砲弾をちょうど半分使いきった辺りで、東條少将は砲撃作戦の終了を決定した。戦果は、破壊すべき砲台約200門のうち128門の完全破壊に留まった。
「未だ脅威は残るが…仕方ないか。全艦、進軍を開始せよ」
まあ躊躇つっている暇もない。艦隊はマダガスカル島へと向かう。ただ、敵陣を艦隊の射程に入れるまで、実はまだ3時間程度がかかる。
「暇だな、少将」
「ええ。確かに」
「だが、暇過ぎるとも思わないか?」
ゲッベルス上級大将は急に参謀然とした声になった。東條少将も釣られて思考を加速させる。
「なるほど。現段階で敵が全く見えないのはおかしいと」
「ああ。その通りだ。流石に瀕死の奴らにしても手抜き過ぎるだろう」
確かに、敵の砲台は機能していたようだが、それ以外のものは一切確認出来なかった。飛行艦どころかヘリコプターの一機ですら。
「敵軍の戦力としては、一個艦隊程度が残存しているのが確認されていますからね」
「ああ。それを内陸に引きこもらせるだろうか…」
「普通に考えれば、悪手です」
戦力の集中を原則とする近代戦術の理論からして、ここで沿岸陣地が破壊されるのを見逃すのは全く合理性を欠いている。もしも東條少将が今のマダガスカルを指揮していたとしたら、数度に渡る会戦を強要して敵兵力の漸減に努めていただろう。
「まあ、考えれる策としては、アンタナナリボか、或いは内陸のどこかに秘密兵器的なものを仕込んでいる可能性はあるな」
「となると、海岸などどうでも良いのかもしれないと」
「そうかもしれない。まあ、知らんが」
秘密兵器とやらが実在した場合はかなりの脅威となるかもしれないが、現状ではそのような情報はなし。それに、そのやり方はもう使い古されてしまった。それが通用したのは日ソ開戦のころまでだ。
「まあいくら考えても仕様がない。軍人らしく正面から殴りかかってやろう」
「ええ。それが一番安全です」
歴史上の名将というのは、自軍の全体的な数的劣勢の時、敵を分断し、各個撃破を繰り返すことで勝利を掴んできた。よって、逆に分断されるのを許さなければ、負ける筈はないのである。
つまり、今回の戦いにおいては、完璧な勝利を目指して艦隊を分けたりするよりは、何も考えずに全軍突撃をした方が良い。
「敵砲台予想射程まで残り僅かです」
「やった来たか。全艦戦闘用意、最高速度で突っ込め!」
「敵、発砲!」
「チッ、やはり長い」
こちらの戦艦の比べて、敵の砲台の方が射程が数km長い。その間は向こうから一方的に撃たれることになる。これが理由で東條少将は全速前進を命じたのである。
すぐに前方のいくらかの艦から黒煙が上がった。
「被害は?」
「戦艦1、巡洋艦4、駆逐艦3が被弾。うち巡洋艦2が重大な損傷」
「敵、再び斉射!」
「全艦、怯むな!とにかく進め!」
敵は30門弱ずつの斉射を交替で行う作戦のようだ。全門一斉砲撃よりは遥かにインパクトに劣るが、常に砲撃される身としてはストレスになる。敵ながら良い作戦だ。
「友軍射程に入りました!」
「よし。撃ち方初め!また速度はこのまま維持だ!」
やっとこちらも攻撃できる。しかしそれは戦艦だけ。巡洋艦などはまだ撃っても届かない。
「第一波、着弾!」
「命中率はロンドン砲よりマシだな。戦果を直ちに集計せよ!」
「砲台9、沈黙しました」
「9か。十分だ。このまま攻撃を続行せよ!」
そして、撃ち撃たれることおよそ1時間。
「敵砲台、完全に沈黙。我が艦隊への脅威は消滅しました」
「ふう…なかなか手強い相手だった…」
勝ちは勝ちだが、なかなかの損害が出てしまった。最終的に戦艦3
、巡洋艦7、駆逐艦6が沈んだ。一個艦隊にも迫るその損害は、東條少将の予想の中では最悪の部類に属するものだった。
「全艦、休むのはまだ早い。このままアンタナナリボまで進軍せよ」
まず第一の関門は突破。しかしアンタナナリボは遥か遠くの都市であり、その防備も固い。まだまだ終わってはいないのだ。
だが、実のところ、アンタナナリボまではまだ8時間程度かかる。その間ずっと緊張状態を保つのは無理な話だ。兵士には交替で休息が与えられることになっている。まあ東條少将にそれはないが。
「しかし、マダガスカルの自然は本当に豊かだな…」
飛行艦から見える光景は常に絶景だ。戦後は戦艦を観光に使うのもまた一興と思える。
が、そんな穏やかな空気もすぐに破壊された。
「アンタナナリボ方面より、大量の敵戦闘攻撃機が飛来!」
「何だと!?全艦戦闘用意!航空艦隊は出れるものかは順次出撃せよ!」
まさかここで仕掛けてくるとは。東條少将にもゲッベルス上級大将にも予想外だった。




