再起
さて、カルタゴについては復活の可能性も視野に入り、ケープタウンでは暴動やテロの類いは起こっていない。順風満帆と言ったところだった。今日、7月16日までは。
「我々アフリカ連邦共和国政府は、アフリカの連邦を代表する唯一の政府である。よって、自由アフリカなどと僭称する反政府武装勢力に、我々が屈することはないのだ」
というメッセージがマダガスカル島から全世界に向けて発信された。その送り主はアガトクレス大統領だった。
「どうしてアガトクレス大統領が生きているんだ?」
東條少将は言う。アガトクレス大統領らが乗っていると思われた艦隊は、完全に消滅させた筈であるからだ。
「事前に逃げていた、ということでしょうか?」
ハンニバル大佐は言う。今日は自由アフリカの代表を集めての施策会議だった筈なのだが、その議論も中断されてしまった。
「確かに、それが一番もっともらしい」
普通に考えればハンニバル大佐の仮説が正しいと思われる。しかし、アガトクレス大統領は、最後の決戦で自分だけが逃げるような人間だろうか。
「アガトクレス大統領は、私の知る限りでは、敵前逃亡なんてする男じゃありませんよ。確かに政策はくそったれでしたが、味方は裏切らない人間だったと記憶しています」
ハミルカル代表は言う。
「なるほど。それを信じるとなると、さっきの説はあまり信じられない」
「あの艦隊が囮であった可能性は、どうですかね?」
近衛大佐は言う。
「囮?」
「ええ。つまり、実は、例えば潜水艦などに大統領が乗っていて、あの艦隊は殆ど無人だった可能性があります」
「確かに、その線が濃厚だな…」
確かに、あの艦隊の中に誰が乗っていたかは誰も確かめていない。囮としては巨大な犠牲だろうが、政府の中枢を生かす為としたら安いものなのだろうか。
「話題があらぬ方向に飛んでいます。私も参加していましたが…今は彼らにどう対処するかを議論すべきでは?」
ハミルカル代表は言う。確かに、この議論に生産性は皆無だ。例え真相が判明したところで、何物起こらない。彼らが議論すべきなのは、今後の対応である。
「それについて、私から一言、宜しいですか?」
ハンニバル大佐は言う。
「もちろん」
「はい。マダガスカル島は、まさにこのような状況を想定し、武装しています。北や西からの攻撃には、最後の砦となるように。東からの攻撃には、首都への直接攻撃を防ぐ壁として」
マダガスカル島は、首都アンタナナリボの周囲だけでなく、全島が重度に武装されているらしい。海岸には砲台がところ狭しと並び、内陸には遠隔地雷が敷き詰められ、アンタナナリボは数ヵ月の籠城にも耐え得る要塞になっていると。
「また、これは私が軍に在籍していた時の情報です。恐らく、それから7年が経った今、マダガスカルは更に重武装されているでしょう」
「なるほど。それはなかなか厳しいものがあるな」
「ええ。ここを制圧するのは、かなりの困難を伴うと思われます」
もちろん負けることはない。敵に反撃を行う能力は残っていないからだ。しかし、この島に数ヵ月もの間艦隊を拘束されるというのは、外交上よろしくない。
「でしたら、ヨーロッパ国のロンドン砲を借りるのはいかがですかな?」
近衛大佐は言う。半年程前にグレートブリテン島で実戦使用されたそれだが、射程は200kmを優に超えるという。それを使えば或いはと。
「しかし、ロンドン砲の実戦記録を見ると、どうも陸に置かないと使えないようです。それに、彼らはグリーンランド攻略にそれを使える筈なのに、使っていません」
ハンニバル大佐は言う。言われてみれば確かにそれは真実だ。それに、この半年、グリーンランドに逃げた欧州合衆国残党を放置しているのも疑問だ。
「それは、使った本人に聞いてみるしかないだろうな」
「本人?」
「まあ、ゲッベルス上級大将や、ド・ゴール上級大将や、後はシュペーア社長なんかだな」
「ならほど」
これは考えていても仕方ない。聞いてみないとわからないことである。
もっとも、一応の同盟国とは言え、この機密の塊のような兵器について教えてくれるかは不明瞭だ。もしロンドン砲の仕様が外に知れれば、それに対して対抗策も考えられてしまい、ヨーロッパ国が相対的に損をするからである。
「ここは、どうしようか?向こうに一回乗り込むか、通信で済ませるか」
東條少将は言う。礼儀を重んじるなら前者だが、実用の観点からすると後者の方がよい。
そして結論としては後者か選らはれた。




