最終決戦Ⅳ
「最早、これまでか…」
彼が見たのは彼を裏切り艦隊を降伏させている士官らの姿であった。結局彼らはモントゴメリー大将よりアガトクレス大統領に服することを選んだのである。
「閣下、私の負けのようです」
モントゴメリー大将はその拳銃を静かに下ろした。
「ああ。これでいい。祖国の為に戦って死ぬのは名誉なことだが、無駄死にはそうではない。だろう?」
「ええ。そのようです」
どまあ、この内乱騒ぎは一件落着である。しかし、では反逆の咎を犯したモントゴメリー大将をどう遇するかという問題が出てくる。
「大将は軍から除籍すべきですよ」
「彼は国家に対する重大な反逆者です」
「軍法会議にかけるべきだ!」
さっきまでビビり散らしていた官僚達は、自分の立場が上になった途端にこうである。モントゴメリー大将の処分を一斉に主張し出す。
「お静かに!お願い致します」
モントゴメリー大将その人が、非常な怒りを込めた声で叫んだ。怯んだ彼らはすぐに静かになった。
「私の身がどうなろうと構いません。しかしながら、その件についてこの場でとやかく言うのは違いましょう。既に敵軍は迫っており、我々は、今後いかに振る舞うべきかを議論すべきであります」
それは正論中の正論だった。この神聖な議場を下らない論題で汚すことは許されない。
「諸君、ひとまずこの議論は棚上げしよう。モントゴメリー大将は今の位に据え置きだ。彼の処分を決めるのは、また後にする。いいな?」
不服そうな者が多数であったが、反対する者もなかった。つまり承認ということである。
「とは言ったものの、どうすればいいんだ?」
飛行艦隊は事実上消滅。飛行空母と艦載機はそこそこの数が残っているが、それだけで戦える訳はない。正攻法で勝利を掴むことは今や不可能となったのだ。
「私から現状を報告しましょう」
モントゴメリー大将は言う。
「おう。頼んだ」
「現状、取り得る選択肢は大きく2つあります。それは、ケープタウンに立て籠るかアンタナナリボに立て籠るか、です」
アンタナナリボというのは旧マダガスカル共和国の首都である。残された手立ては陸で戦うことだけなのだ。
「またこれは今すぐに決定されなければなりません。今ならまだケープタウンの港が使え、アンタナナリボへの脱出も可能ですが、敵飛行艦隊がケープタウンに着いた時点で、ケープタウンからの脱出はできなくなります」
「ケープタウンを捨てると言うのか」
「選択肢の一つとして、ですが、そうです」
「しかし、それはな…」
首都を捨てることに抵抗を持つ者は多い。そもそも彼らが愛国心で集まった人間であるからである。
「大将はどう思うのですか?どちらがいいと?」
「私は、アンタナナリボにて抵抗を行うことをおすすめします。ケープタウンよりマダガスカル島の方が圧倒的に防御に優れているからです」
「なるほど」
やはり海を隔てているというのは大きい。飛行艦は海に沈めば絶対に再利用できず、資源の限られた人類はどの国家であろうとそれを嫌う。
「もしも皆様が名誉を一旦捨て、国家の存続に最適な選択を行おうというのならば、アンタナナリボの方が圧倒的に優れていることはお伝えしておきます。しかしそれ以上のことは申しません。皆様がお決め下さい」
軍人の視点からするのアンタナナリボ一択である。だがその他の者にとってはそうでもなかった。
「カルタゴはどうなったのですか?あれを動かせばまだ望みはあるのでは?」
「あれが一つあるだけでは、戦局は打開できません」
「しかし時間稼ぎくらいには…」
「それは無理だ。諦めてくれ」
「閣下?」
アガトクレス大統領はついにこれを告げねばならない。
「カルタゴは動かない。それは既に判明している」
「やはり、そうなのですね。薄々察してはいましたが」
「そういうことだ」
この話でアガトクレス大統領が糾弾されることはなかった。誰もがその無駄なのを理解しているからである。
「さて、結論は出たかね?」
議論という程のものでもないが、ケープタウンかアンタナナリボかという討論は、一応し尽くされたと見える。またその趨勢は明らかであった。
「我々は、ケープタウンを捨て、アンタナナリボへ政府を移すと決定しました」
「わかった。では早速行動に移ろうじゃないか。モントゴメリー大将、後は頼んだぞ」
「了解です」
そうと決まれば話は早い。ありったけの軍艦を港に集め、詰め込めるだけのものを詰め込み、一目散に飛び出すまでである。
もっとも、ここに残る者もいた。それは合意の条件であった。その中にパイク博士が含まれていたのは意外である。
かくして、アフリカ大陸の全土は自由アフリカの手中に収まった。




