嫌がらせ作戦Ⅰ
タイトルどうしたって感じですよね。
崩壊暦214年7月3日23:13
「敵は防御に移ったようです」
「作戦に支障はない。作戦通り、敵に被害を強要する」
現在、チャールズ元帥の艦隊は、五大湖に浮かべた5つの湖上要塞の上空に陣取り、日本艦隊を待ち受けている。
湖上要塞は、一辺がおよそ500mの正方形型のフロートの上に、様々な兵器を載せたものである。
チャールズ元帥にとって、スペリオル湖は決戦の場でも何でもない。しかし、日本艦隊に無傷で通られるのもしゃくである。
そこで、チャールズ元帥は、逃げながらも確実に敵に被害を与える消極戦法をとることにしたのだ。
「ニミッツ大将より、連絡です」
「繋げ」
その時、ニミッツ大将からの通信が入ってきた。
今回、湖上要塞の指揮のため、ニミッツ大将は艦隊には不在である。ニミッツ大将は、湖上で日本艦隊を待ち受けている。
「チャールズ元帥閣下、湖上要塞は想定通りに稼働しており、迎撃に問題はありません。
ですが、日本軍の防御陣形に対しては、ミサイルが効きにくいかと思われます。そこで、危険を冒してでも、高射砲による攻撃の許可を頂きたく存じます」
ニミッツ大将が提案するのは、湖上要塞を日本艦隊に近づけ、高射砲による攻撃を行うというものである。湖上要塞に取り付けられているのは、60cm高射砲である。その威力は絶大だ。
しかし、当然ながら、日本艦隊の砲撃をもろに浴びるため、被害は免れないだろう。
「許可はしよう。しかし、私が撤退命令を下した時は、どんな状況でも即座に引き返すように。それと、被害はあまり出したくないから、上手く要塞を動かしてくれよ」
「了解しました。それでは、ご武運を」
通信は終わった。
着々と日本艦隊は迫ってきている。チャールズ元帥にできるのは、ただ待つことのみである。
3回目のケラウノスの斉射が、スペシガンより行われる。米艦隊から少し南を見ると、無数の光の筋が、日本艦隊に向かっていくのが見える。
「敵、対艦ミサイルの射程に入りました」
「来たか。全艦、ミサイル斉射!」
米艦隊のあちらこちらから、無数のミサイルが飛び立つ。それらは全て、日本艦隊に襲いかかっていくのだ。
ついに、艦隊対艦隊の戦いが幕を開けた。
「命中13です。敵は、あの炸裂弾を使っています」
しかし、大半のミサイルは迎撃されてしまう。しかも、サンフランシスコで多数の航空機を落とした炸裂弾を、なにやら改良して実用化したようだ。
焔は日本艦隊の前に壁を作り、それを守護している。
「敵、発砲しました」
「やはり、狙いは要塞からか」
敵は、未だ米艦隊に砲撃が届かない距離から発砲してきた。これは、湖上の要塞を狙ったとみて間違いないだろう。
既に、要塞周辺からは、巨大な水しぶきが上がっている。しかし、飛沫の中でも、湖上要塞は揺るがない。
「今は要塞を下がらせろ」
チャールズ元帥は、要塞を少し後方に下げるよう命令する。このままでは、湖上要塞だけが滅多うちにされるだけである。
湖上要塞は、案外と速く移動できる。空に戦艦を浮かべられる時代なのだから、巨大な船を動かすのなど容易なことだ。
また、敵もそれに合わせて前進してくる。
そして両軍は、砲撃戦ができる距離まで迫っている。
「艦砲斉射。ミサイルもだ」
米艦隊の主砲が、一斉に火を吹いた。ミサイルも、同様に敵に向かっていく。
もちろん、日本艦隊も同じことをしてくる。今、砲撃戦は幕を開けたのだ。
「日本艦隊との距離を維持しつつ、スペシガン方面に後退せよ」
砲撃戦が始まると同時に、米艦隊は下がり出す。あくまで、米艦隊の目的は勝利ではないからだ。
両軍は、まったく同じスピードで南東に向かっていく。
距離はかなりあるため、両軍とも命中率はかなり低い。流れ弾はスペリオル湖に落ち、大量の水しぶきが上がり、湖上は霧に覆われている。
「ケンタッキー被弾。対空ミサイル小破です」
「問題はない。戦列に残せ」
それ以降、命中の知らせも、被弾の知らせも飛んでこなかった。
「長距離だと、案外当たらないものだな」
両軍は、なおも砲火を交え続けているが、砲弾の数だけスペリオル湖から水しぶきが上がるだけである。
「閣下、ここは、確実に命中弾を与えるため、狙いを絞ったほうが良いでしょう」
ハーバー中将は、所謂一人狙いを提言する。このままでは、らちがあらないのだ。
日本軍が無傷であるのは、流石に問題である。
「よし、確実に被害を与える。全艦、敵戦艦、金剛と長門を狙え」
チャールズ元帥は、敵の陣形の最前列の戦艦である、金剛と長門に狙いを定めた。
米艦隊は、その一点に砲撃を集中し始める。やがて、やっとの命中の知らせが届いた。
「金剛に命中。対空砲を2門破壊しました。」
「うん、よろしい。この作戦でスペシガンまで逃げ通そう」
米艦隊は、相対的には日本艦隊と常に同じ位置関係のまま、点々と砲火を交えつつ、スペシガンへと向かっていくのであった。




