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終末後記  作者: Takahiro
2-8_ヨーロッパ統一戦争
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コンスタンティノープルの戦いⅤ

崩壊暦215年3月25日05:42


「くっそ、どこも堅すぎるだろ」


「仮にも帝都ですからね。本気なんでしょう」


夜通し戦い続けた結果、前線は完全に膠着した。


敵の抵抗は極めて堅固である。あらゆる建物に設置機関銃やら対戦車砲やら迫撃砲などが据え付けられており、まるでコンスタンティノープルが巨大な要塞のようである。


また、その前線はゼカリヤ側面の機関砲の射程内(正確には一定の俯角を確保できる距離)の中に限られている。その援護の中では主導権が握れるが、一歩出れば蜂の巣だ。


他方、牟田口少佐は、前線の後方から全体の指揮を行っている。前線の前進を想定し野外に設置した指揮所であるが、今のところはその意味を全く成していない。


そこでは当然ながら軍議が開かれている。ただ少し特異な点として、全員が機動装甲服と小銃を片手にしている。


「予備戦力はどのくらいだ?」


「戦車10両、歩兵1500です」


「最低限の打撃戦力ではあるか…」


かつての世界では吹けば飛ぶ塵のような規模の部隊だが、この時代、特に都市における地上戦ならば、十分な戦力と言える。因みに、予想されるギリシャ軍守備隊の数は8000である。


「投入するのですか?」


「迷うな」


「この数を一気にぶつければ、まず間違いなく前線は貫けるでしょうね」


「ああ。だが、予備戦力が0になるというのは、好ましくはないだろう?」


ゼカリヤに残る戦力は、前線に投入は可能な予備戦力であると同時に、ゼカリヤそのものの守備隊でもある。


これを投入したのを察知され(間違いないされるだろうが)、他の箇所で前線が崩壊すれば、前線総崩れどころか、ゼカリヤが奪取される可能性すらある。


ゼカリヤを取られた時点で、牟田口少佐に降伏以外の道は残されなくなる。


「ん?少佐殿、聞こえますか?」


「何だ?」


「モーターのような音が…近付いて来ています!」


「ああ、聞こえるぞ…」


それは殆ど聞いたことのないような音だった。しかも、ゼカリヤが保有する如何なる兵器も、そのような音を立てはしない。


「ゼカリヤより報告!こちらに接近する正体不明の小型艦を確認!」


「ゼカリヤは撃ってないのか!?」


だが牟田口少佐がそう言った瞬間、砲声が響いた。鈴木中将は不明艦の排除に取りかかったようだ。少し安心する。


だが、その音は確実に近づいてきている。恐らくは、小型艦であるが故に、ゼカリヤでは対応出来ていないのだ。


そしてすぐに、鉄とコンクリートが激しく衝突する破壊音が聞こえた。同時にモーターの音は静まる。


「ゼカリヤに問い合わせろ!今のは何だ!?」


「確認中です!」


「チッ。総員戦闘用意!銃を構えろ!」


考え得るなかで最悪の状況、そしてもっとも可能性の高い可能性は、今の音が敵軍の艦艇のもので、牟田口少佐が今まさに襲撃さるようとしている、というものだ。


まあ牟田口少佐は既にそう信じている。そうでなくとも、最悪の事態への対応を取っておけば、致命的な失敗を犯すことはないだろう。


「掩体が全然ありませんよ!」


「どっか、そこら辺の箱の後ろにでも隠れろ!気休めくらいにはなる!」


「少佐殿!?正気で!?」


「どうせ敵も同じ条件だ!諦めろ!」


本当に隠れるものがない。舗装された道路に起伏などはなく、広い場所を選んでしまった為に、建物もない。あるものと言えば、必要な電子機器を収納してある箱やコンピュータくらいだ。


「熱源反応を調べろ。範囲は最大だ」


「了解です」


熱源反応は、捜索範囲を広げると精度が落ちていく性質がある。建造物の中などでの戦いでは不適切だが、こういった、いるかいないかが判ればいいだけの場合なら、問題はない。


「ゼカリヤから報告!敵艦は沈黙しているとのこと!」


「了解。熱源は?」


「反応ありません」


「そうか…」


それは妙だ。何故何もしないのか。まさか本当に操舵を誤っただけの愚かな船なのだろうか?


それならそれで大歓迎だが、悲しいかな、そうは思えない。


「ゼカリヤに映像を送ってもらえ。こちらでも監視をしたい」


すぐに牟田口少佐のデバイスに映像が送られてきた。それはゼカリヤのカメラからリアルタイムで送られてくる映像である。


確かに、見るからにおんぼろそうな軍艦が、港に衝突し、停止している。まるで幽霊船のようだ。乗組員だけが消えた船の伝説はいくつもあるが、そういったものが思い出された。


「今のところ、動きはない!だが、油断するなよ!いつ襲ってくるか分からんからな!」


そしてデバイスの方に視線を落とす。


ただ静かな波が流れるのを眺めるだけの作業。それが続く。その間当然、指揮任務は極めて行いにくくなる。これこそが敵の真の狙いなのでは、とも思えてくる。


「少佐殿!見て下さい」


牟田口少佐は少し目を離していたところ、必死な声に呼び戻された。

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