コンスタンティノープルの戦いⅣ
「おい!あれ!」
戦友は氷山戦艦の方を指差した。タラップなど関係なく、その穴から飛び出してくる戦車の群れが見えた。それらはどんどん出てくる。
そしてジョバンニは望遠鏡を覗いた。見るに、ヨーロッパ国軍も自由アフリカ軍も日本軍も、上陸にタラップなど必要内容である。戦車や装甲車の壁に掴まり、それらと共に地上に降り立っていた。
「くっそ。やられた…」
氷山戦艦にしてやられたのは純粋に悔しかったが、ジョバンニには何も出来なかった。ただ敵軍の雄姿を眺めることしか出来ない。
「どうなっちまうんだ?」
「さあ。わからない」
戦況が絶望的に悪いということだけはわかった。
「…え…ぜん……」
その時ジョバンニの通信機から人の声のようなものが聞こえた。
「もっと電波の良いところへ」
「わかった」
通信機を持ち、近くの高台に登る。同時に周囲から電波に干渉しそうなものを取り除いた。すると声が鮮明に聞こえてくる。
「…応答せよ。繰り返す。こちらHQ…」
「おい!聞こえるか?」
味方からの通信であるのは間違いない。ジョバンニは藁にもすがる思いで応答した。
「生きていたのか!所属は?」
向こうのオペレータは喜んだ。しかしそれは不安を増長するだけだ。普通、兵士一人が応答したくらいでオペレータが感情的になったりはしない。
「コンスタンティノープル東部防衛師団、第三大隊、第四小隊だ」
「あの区画か。よく生きていたな…」
「現況を教えてくれ。どうなってる?」
そしてオペレータが告げたのは残酷な事実だ。全ての砲台が悉く精密砲撃され、残存する砲台は皆無。おまけに広域通信にも全く応答しない。またジョバンニがいる辺りは特に激しい砲撃を受けたそうだ。
彼曰く、生存者が二人もいるには奇跡的であると。
「で、どうすればいい?」
上官も死んで指揮系統は崩壊した。ジョバンニらは何もない虚空に放り出されたも同然だった。
「もう砲台がない以上、地上戦に参加してもらうしかない。いいな?」
「はい。だが武器がない」
彼らはあくまで砲の操作を担当とする兵士だ。白兵戦に使われるような武器は保持していない。精々護身用の拳銃があるくらいだ。
「それならば、北の第七武器庫に向かってくれ。歩兵用装備が余っている」
「了解」
「それと、他にも生存者はいる。彼らにも第七武器庫に集まるよう言ってあるから、そこで一旦待機してくれ。次の命令は追って出される」
「以上か?」
「以上だ」
そしてジョバンニらは歩き出した。第七武器庫までは3kmほど。まあすぐに着く距離だ。
途中、吹き飛ばされた砲台をいくつも見かけた。それに比例する数の死体も。そういうものからは目を逸らし、先に進んだ。
「おお、それなりにいるか」
「そうだな。少し安心したよ」
第七武器庫の前には数十人の兵士があった。機動装甲服で武装した者、殆ど丸腰の者、割合は半々くらいである。
「お前たちも生き残りかぁ!?」
気の良さそうな士官が叫んできた。ジョバンニはその旨を伝える。
「わかったぞ。よし!こっちに来い」
そして二人は武器庫の奥に連れて行かれた。
武器庫は殆ど空の状態であったが、奥の方に行くと、少しだけものが残っていた。その中には機動装甲服もあった。
「お前たち、まずはこれを着ろ!やり方はわかるか?」
「はい。まあ」
とは言え、実際に着てみたのは練兵場の中だけである。そして、朧げな記憶を辿りつつ、ぎこちないながらも、一応は機動装甲服の着用に成功した。同時に側にあったバトルライフルも手にする。
全身が軽くなっている。バトルライフルなんかプラスチックのおもちゃのように軽い。それに加えて並みの銃弾なら弾き返す装甲である。端的に言って万能感がある。
「よしっ。じゃあ、外で待っててくれ」
「了解です」
そして武器庫の外で待つことになった。機動装甲服を着ていると、ひたすら立っていても疲れの類を一切感じなかった。
やがてさっきの士官が出てきた。
「諸君!いいかな?」
皆の注意が彼に集まった。
「私はルーデル中佐だ。ドイツ人だが、ちゃんとギリシャに勤めている。そして今から諸君らの上官になる!」
辺りがざわつく。当然だ。まさかこの男が自分らの上官だとは、全くもって想像していなかった。それも、ここにいるにしては高すぎる階級の男だ。
「既に地上戦は始まっている!今は持ち堪えているが、危ない状況だ。そこで諸君には、敵主力部隊を背後から襲撃する任務が下った!」
「え。マジかよ」
ジョバンニは生命の危機を大いに感じた。元は砲兵、白兵戦の関してははっきり言って雑魚である彼らが、最も危険な役割を押し付けられたのだ。




