表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末後記  作者: Takahiro
2-8_ヨーロッパ統一戦争
542/720

コンスタンティノープルの戦いⅢ

「敵艦、停止!」


王者の凱旋の如く進航せし氷山戦艦が、ついに止まった。もっともそれはギリシャ軍の攻撃の帰結ではないだろう。


「やっと来たか。増員!砲撃止め!照準用意!」


怒鳴り散らしている上官も緊張していると見える。


砲撃目標はあらかじめ設定してあり、そこに砲口をずらす作業を行う。結果、コンスタンティノープル中が異様な静寂に包まれた。


「…!動いた」


敵に聞こえている筈もないが、ジョバンニの声は思わずして小声となっていた。鉄や氷の軋めく音、打ち寄せる波を砕く音を立て、氷山戦艦は動き出した。


その向きは、まさにジョバンニが控える方向ではないか。


「総員!敵は必ずや陸戦部隊を送り込んでくる!それを砲撃するのだ!」


照準主は狙いを氷山戦艦に向ける。タラップが降りてくると思われる場所にだ。まあそこから降りてくるのは間違いないだろう。


やがてゴンと音を立て、氷山戦艦は海岸に衝突した。普通の船なら損傷を恐れるところ、奴にはそんな観念すらないらしい。


「来た!」


ついにタラップが降りた。艦内から陸地への道だ。


「撃てぇ!上陸を許すなぁ!」


「了解しました!」


降ろされたタラップは全部で4つ。まずは第一波。その全部が砲撃された。


「弾着観測!」


「は!敵艦のタラップを破壊致しました!」


そう、ジョバンニの仕事はこれである。砲弾が何を破壊したか、その実際的な被害を確認し、報告する。まあ閑職と言われても仕方がないものだが。


タラップは容易に破壊出来た。この時代、大昔なら考えられない程の精度での砲撃が可能だ。


「宜しい!よくやった!砲撃を続行するぞ!」


「はっ!」


それは氷山戦艦に穴が空いたということになる。艦内、恐らくは格納庫が丸見えである。入り口の辺りを破壊しつくしてしまえば、或いはと。


「流石に、これ以上の破壊は不可能かと!」


「そうか。ならば戦艦の上部を砲撃せよ!」


しかしおかしい。氷山戦艦は何もしない。上陸を阻止されたじろいでいるとも考えられるが、それならそれで、他の作戦に移るだろう。第一、タラップの跡地すら、完全に破壊出来た訳ではない。


「あれは…ヤバい!」


その時ジョバンニは、氷山戦艦な主砲がゆっくりと旋回し出すのを認めた。


「中尉殿!敵艦に動きが!主砲です!」


「何!?どこを向いてる!?」


「目下確認中です!」


とは言え、このタイミングで動き出すとなるの、やることはだいたい想像がつく。非常に嫌な予感に襲われる。


「目標はここです!各所の砲台が狙われています!」


前線より奥を狙い出したところで、もう確定だ。


「中尉殿!どうされますか!?」


ここに居れば恐らくは死ぬ。早く判断してもらわねば。


「しかし…私の判断だけで持ち場を離れるなど…」


「だったら上に問い合わせて下さいよ!」


「あ、ああ。そうしよう」


だがそれでは間に合わない。上に状況を伝えて、そこから更に上官に取り次いでもらって、判断を仰ぐ。そんな時間はない。


「止まった!」


それは照準が定まったという合図。


「全員退避!隠れろ!」


二等兵に過ぎないジョバンニが命令を下さんとする。それくらいには状況は逼迫している。


ジョバンニはその瞬間、砲台から遠ざかる向きに走り出した。他の兵士もそれを真似る。しかし、僅か鄒mも進まないところで、氷山戦艦の主砲が火を噴いた。


「くっそ!」


ジョバンニは必死に生存を試みた。走るのはもう無駄。ならぼせめてもと、地面にダイブし、頭を抱えて衝撃に備えた。


一瞬、間があった。彼にはその時間がとても長く思え、さっきまでの行動が杞憂だったのではないかと思った。


しかし、たちまち訪れる砲弾の音に、その希望も掻き消された。


「うあぁ」


衝撃波によって呼吸が妨害される。間違いない。ジョバンニの砲台は、潰えた。


ゆっくりと振り返る。しかしその直後、今度はその反対から鈍い音がした。振り返ると、さっきの砲身が吹き飛んで、民家に落下していた。


つまり砲台は跡形もなく吹き飛ばされたのであった。


「おい!ジョバンニ!生きてるか!?」


戦友か一人、生き残っていた。


「ああ。なんとかな。他の奴は?」


「今のところは、誰もいねえ…」


「そう、か」


ジョバンニは相当に奇跡の人だったらしい。砲台の回りには死体と砲の残骸しか転がっていなかった。


「回りにも煙が見える。どうなってるんだ?」


「ああ、ちょっと待ってくれ」


幸いにもジョバンニの望遠鏡は無事であった。すぐに周囲の様子を確認する。


「ど、どうだ?」


「ダメだ。片っ端から吹き飛ばされてる」


「もう、終わったじゃねえか…」


「そうかもな…」


ギリシャ軍砲兵は、全滅した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ