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終末後記  作者: Takahiro
2-8_ヨーロッパ統一戦争
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反撃作戦

「東條少将に通信を」


「了解」


牟田口少佐は地上に出て、再び東條少将に通信する。


「取り敢えず、地上には無事に出られました」


「それは良かった」


「ですが、武装は殆ど残っておりません。戦車や装甲車はもちろんのこと、重火器も完全に喪失しました」


「敵軍と正面から戦うのは無理、か」


「はい」


敵は装甲車両も何でも持っているだろう。機動装甲服があるとは言え、自動小銃と僅かな手榴弾だけで勝てるとは思えない。


「一応、陸戦部隊の回収は可能だ。ここで戦っても無駄死にになるだけだろう?」


「ええ。それも考えました。しかし、ここで黙って退くのは、好かんのです」


「それはそうだろうが、どうするつもりだ?」


およそ勝てる望みはない筈であるが。


「簡単な話です。奴等がやってきたことを、そのままやり返してやればいい」


「な、それは、アテネを爆撃せよと言うのか!?」


「ええ。その通り。ただ、敵の基地だけですが。今度は奴等を火の海に静めてやりましょう」


牟田口少佐からは殺気が溢れていた。


そして確かに、基地を爆撃、と言うか砲撃するのは、こちらが勝利する唯一の手段だろう。しかし、基地のみを狙うと言っても、全ての砲弾を命中させることは出来ない。


基地周辺で新たな犠牲が生まれることは、覚悟せねばならない。


「戦術的には、可能だ。だが、本当にそれでいいのか?」


「はい。この際、多少の犠牲は仕方がありません。既に奴等が大勢の市民を殺した以上、我々が非難されることはないでしょう」


「わかった。ならばそうしよう」


「ありがとうございます。ではまた後で」


「ああ」


通信は終わる。作戦は決定だ。東條少将は動き出し、艦隊の配置を整える。


「少佐殿、第八部隊が基地に近いです」


「ああ、そうだったな。第八部隊には基地からなるべく離れるように命じよ」


「了解です。ですが、第八部隊ならば周囲の市民に避難を呼び掛けることも出来ますが」


今なら避難も間に合う。市民を基地から遠くに避難させることが出来る。そうすれば、減る命が幾分か減る。少なくとも殺戮者の謗りを受けることはなくなるだろう。


「いや、避難は呼び掛けなくていい。いや、呼び掛けるな」


「本気ですか?」


「ああ。そんなことをすれば、敵に意図が伝わってしまう」


「そう、ですが…」


最大の効果を得たいなら、市民は放置すべきだろう。だがそれは、第八部隊にとっては、すぐそこにいる人を見殺しにするということを意味する。


「おい、あんた、それはないだろ!」


ロンメル中佐が突っかかってくる。しかし牟田口少佐はそれを冷酷に突き飛ばす。


「中佐殿には、感謝している。だが、今回の選択は、勝利か敗北かを選ぶ次元に来ている。そして我々に敗北は許されない」


「だからってなあ」


「これは決定だ。それに、貴官は我が軍に対し何の権限も持たない。わかったら黙っていろ」


「チッ、そうかよ」


そしてロンメル中佐は離れていった。


やがて東條少将からの通信が入る。


「砲撃の準備は完了したぞ。そっちはどうだ?」


「問題ありません。今すぐ、初めて下さい」


「お、おう。わかった。では、砲撃を開始する。通信はまた切る」


「ではまた」


そして今度は遠くから爆音が聞こえた。ここに聞こえたものは小さかったが、同じ距離であったら、ギリシャ軍の副砲よりも遥かにけたたましいのだろう。


やがて、風を切る音と共に、副砲弾などより遥かに重い主砲弾が飛来した。そして地上に衝突し、周囲の全ての物体を木っ端微塵に吹き飛ばす。


やがて、最後に残った基地すらも、瓦礫の山の集合と化した。


粉々の死体、原型を留めない戦車、建物の残骸が、ただただ視界を埋め尽くしていた。


そして、その周囲に済む市民も、殆どが、死んだ。アテネの市民はほぼ絶滅したと言っていい。


やがて、アテネを砲撃してはならないという枷を取り払われた飛行艦隊は、敵飛行艦隊に対する包囲殲滅作戦を決行。瞬く間に撤退に追い込んだ。


「これで、終わりだ」


基地の跡地で、牟田口少佐は、自由アフリカとヨーロッパ国の軍旗を立てた。煤の中にはためくそれは、或いは弔旗であったのかもしれない。


結局、アテネの生存者は、全体で3千と少し。戦前の人口はおよそ5万人であったから、1割すら生き残っていない。生き残ったのはたさに奇跡だろう。


だが彼らも多くの知人や親族を失い、悲しみにくれていた。中には自由アフリカ軍に志願する者もあった。


最早ここは都市ではなく、ただ壁に囲まれた更地も同然だった。



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