あっけなかった
「上陸部隊、降下完了しました」
「今のところ、抵抗はなしか。取り敢えず、指定したポイントの制圧に向かえ」
グラスゴーの主要機関は全て把握している。降下場所もそれを考慮して最適な場所を設定している。
今のところ抵抗はない。だが、兵法の常道からいくと、奇襲を仕掛けるのは敵を十分に引き込んでからである。安心出来る材料は、まだ、ない。
「はあ、そんなに警戒しなくてもいいと思うがな」
そんな風に気を張り詰めているゲッベルス上級大将の横で、ド・ゴール上級大将は気だるそうな顔をしている。
「どうしてそんなにも気を抜いていられるんですかね?」
「ま、年寄りの勘だな」
「勘なぞ信用に足りません。私はしっかりと戦争指導を行いますので」
「そうかい」
とは言え、ゲッベルス上級大将も段々と察してきていた。余りにも平和だ、この都市は。それなりに時間が経ったが、会敵も一切ない。それどころか兵士が道端で人助けをしている始末。
だがド・ゴール上級大将の予言が的中したと認めるのは困難である。ここまで来ると最早惰性でことを進めているとも形容出来よう。ただの意地っ張りがそこにいた。
「閣下、グラスゴーより入電です。合衆国政府の公式周波数のものです」
「内容は?」
「我、降伏す。現地市民に適切な処遇がなされることを期する、以上です」
「ああ、ああ、そうか。了解だ」
その非常に短い文章が与えた影響はしかし、巨大であった。
何も起こらなかった。何も起こらなかったのだ。もうグラスゴーは陥落し、誰も一滴の血も流さないで、この作業は終了した。
その後は占領作業に入る。シャルンホルストもまた、空港の一角を占領している。
「何もない都市というのは、久しぶりに見たな」
ド・ゴール上級大将は言う。何もないとはつまり、一切の兵器がないのである。グラスゴーは完全に非武装であった。そして、そんな都市はおよそこの世界にはない筈だ。
「逆に閣下は見たことがあるんですか?」
「ああ。まだ君が産まれる前かもしれんが、マルタに都市を拓いた時、そこに武器はなかった」
「武器がないというより、何もなかったのだけしょう?」
「ははは。ああ、そうだとも。焼け野原だけがあった」
マルタ島は比較的最近、核攻撃によって屍人を殲滅し、新たな都市となった。増え過ぎた人口を移す為だ。ド・ゴール上級大将は当時を知っているらしかった。やはり経験の差というのは永遠に埋まらない。
「まあ、でも、マトモな都市で武器を持たない都市なんてないですよね」
「ああ。何十年と生きてきて、全ての大陸に少なからず上陸したが、そんなものは見たことがない」
「ですよね」
つまりグラスゴーの状態はは極めて異常ということだ。まるで、ずっと以前から捨てることを前提としていたかのような感覚がある。
「もっとも、そんなことを考えても仕方がない。我々は我々に出来る仕事をしようじゃないか」
「ごもっとも。まずはロンドン砲の設置がありますからね」
「ああ。あと、どのくらいだったか?」
「あと4時間後には届くそうですよ」
「ほう。是非とも拝見したいものだな」
本国で密かに開発されていた超巨大砲、ロンドン砲。本来はアムステルダムからロンドンを砲撃する予定だったが、そのロンドンはロンドン砲の実用化前に陥落した。
それ故に、ロンドン砲という呼称は相応しくない気がするが、まあ名前は名前だ。気にすることはない。問題は、それがもうじき届くということだ。
その後、かれこれ4時間後。
「おお、あれか。デカいな」
「はい。それについては賛同します」
一隻の輸送艦に一門しか積めないという代物で、それも館内には入らずに甲板に固定されている。それが3門ある。この世界にあるロンドン砲の全てだ。
「これをエスコートすればいいのか」
「はい。こっちで艦隊を作っておきますので、まあ閣下はグラスゴー見物でもしていて下さい」
「そうか。じゃあ、ゆっくりさせてもらうよ」
これは半分冗談であって半分本気である。
まずゲッベルス上級大将は選抜艦隊を作り、次の目標ストーノーウェイの側まで接近する。
ロンドン砲を設置し、まずはストーノーウェイ近郊の辺りを砲撃し、その威力を見せつける。それで降伏してくれればいいが、そうでなければ実際にストーノーウェイを砲撃する。そんな感じの予定だ。
まあ今少し時間はあるが。
ちなみに、アイルランドのダブリンは未だにNSの統治下にはないが、まあ放置でいいだろう。
そしてド・ゴール上級大将はグラスゴーの軍政を取り仕切る。ロンドンについてもだ。「見物」とは民衆の暮らしを把握するということだ。
このように、北部戦線はおよそ堅調である。




