グラスゴーの戦い
新章スタートです。東條少将とかの活躍も久しぶりに見れます。
崩壊暦215年3月13日14:23
「敵艦隊、確認できません」
「何だって?それだと逆に困ってしまうな」
飛行戦艦シャルンホルストでゲッベルス上級大将が受けとったには、なかなか斬新な報告であった。
敵がいない。敵がいないのである。敵の最前線、最後の要衝に、兵士が、一人も、いない。蒸発でもしたのかと考えてしまいそうだ。そのくらいには不可解である。
来る決戦に備えて散々兵士を鼓舞して来たが、そんなものはなかった。ただ無防備な都市がある。ただし、グラスゴーから降伏なり何なりの通信は入っていない。
国際法的には(ライヒは国際法を遵守する)、交戦状態は未だに解かれていない。つまり、艦隊決戦こそ起こらないものの、何かしらの奇策がある可能性は捨てきれない。
ぼうっとグラスゴーを眺めているというのが現状だ。
「まずは偵察機でも出したらどうだ?」
ド・ゴール上級大将は言う。今回は両名供にシャルンホルストに乗艦し、共同で指揮を執ることとなった。まあ前の戦いで戦艦リシュリューがぶっ壊れたからだが。
「そうですね。それがいい。20機程度、ああ、第一艦隊から適当に動員せよ」
「はっ」
ゲッベルス上級大将のこんなテキトウな命令でもきちんと実行してくれる。やはり持つべきは有能な部下だ。
そんな訳で偵察機が発進、グラスゴーの上空をグルグルと回り、その隅から隅までを調査した。
「3Dマップも作成可能ですが、どうしますか?」
「ああ、そんなにもあったな。暇だし、偶には作ろうか」
「暇とは……了解です」
もうどこの国の司令官でも忘れていそうだが、戦闘攻撃機のスキャナにはその機能がある。都市を丸ごと一つもモデルとしてスキャンするのだ。
一見すると凄そうな機能だが、実際は大して意味がないかつ使える状況がまるでない。今回のような特殊過ぎる状況でしか実用は出来ないだろう。
まあ一応、艦橋の方から都市の地形を確認するには最適な方法ではある。
「スキャン完了しました。モデルをメインスクリーンに表示、閣下のデバイスに操作権限を委譲します」
「ご苦労」
そして都市の観察を始める。モデルは非常に細かく、その時の車一台一台の位置まで鮮明にわかる。上から見えるものは全て確認出来るし、建造物の高さや造りも良く分かる。
そして解ったのは、この都市が何の変哲もない極普通の都市であるということだけだった。
「どうすべきなんだ?」
「敵が本当にただ捨てただけとは考えられないのか?」
「しかし、それならそれで、降伏か何かをすべきでしょう。交戦の意思がないことを伝えなければ、人が無駄に死ぬ」
普通、防衛を放棄された都市は、ロンドンのような抵抗をする予定でない限り、可及的速やかに降伏すべきである。何らかの誤解が生じれば、本来は死ななかった筈の人間も死ぬかもしれない。
「やはり、何らかの作戦があって、それをした時に非難されないように降伏してないとしか思えませんね」
奇襲奇策は禁止されていない。明確に降伏していない限り、また民間人に手を出さない限り、あらゆる攻撃は正当である。
「そういう可能性も捨てきれんが、かと言って、何かその兆候は見えるのか?」
「いや、見えませんね」
ゲッベルス上級大将もド・ゴール上級大将も、その目で確かめた。
グラスゴーには要塞化されているものが一切ない。ロンドンやサンフランシスコなどは、兵士を詰め込んだバンカーが各所にあった。そこから湧いて出てくる兵士が戦闘を長引かせたのだ。
そういう作戦も疑われたが、しかし、この都市には何もない。やれたとしても民家や工場に持ち込めるサイズの兵器しか使えない。大きく見積もっても設置機関銃が限度だろう。
国軍の近代戦力に敵いはしない。
「なあゲッベルス、空城の計というものを知っているか?」
「空城?何となく内容は想像出来ますが……」
「古代中国であった話だ。ある軍師が、圧倒的な劣勢で城を攻められた時、その城門を開けっ放しにして敵に見せびらかしたそうだ。それで、この先どうなったと思う?」
「敵は奇策を恐れ攻撃に移れなかったと?」
「そうだ。更にはそのまま撤退してしまったそうだ」
「なるほど。それが今の我々に当てはまると」
「その通り。大正解だ」
老将ド・ゴール上級大将はつまり、「何か奇策があると思われること」こそが敵の作戦であると言いたいのだ。攻め込んでしまえば何もないと。
「じゃあ、かけてみますよ、その案。但し念の為、完全武装の陸戦部隊を送ります」
「ああ。そうしてくれたまえ」
そういう訳で、グラスゴー上陸作戦が始まった。




