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終末後記  作者: Takahiro
2-7_バイカル湖攻防戦
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クラミツハの取り扱いⅡ

「まあいい。究極的なところで言って、日本がどうとかいうのはどうでもいいんだ」


「そうですか」


ロコソフスキー少将、共和国の頭脳が求めているのは、そんな情報ではない。もっと更に根本的な情報である。


「私が聞きたいのはこれだけだ。結局のところ、屍人の姫とは何者だ?」


「そうきますか。ですが、少し質問が漠然とし過ぎていますね。どうにか、もう少し具体的な質問に出来ないでしょうか?」


「ああ。いいぞ」


ロコソフスキー少将としては大して期待もせずに聞いてみたのだが、案外やってみるもので、クラミツハは乗り気と見える。


もっとも、彼女の損得計算は全く理解出来ないが。非常に高度な計算があるのかもしれないし、ただ遊んでいるだけかもしれない。それは不明だ。


「では、姫は、どういう経緯で、こういう地位を得たんだ?」


「経緯ですか」


クラミツハは少し考え込む様子を見せる。やはりちゃんと考えてはいるようだ。


「簡単に言うと、彼女こそがゾンビ、屍人のオリジナルなんですよ」


「何だと?」


「おや、その程度もご存知ない」


「いや、恐らくそれに該当する事項はある。だが、まさかそれが屍人の姫だとは思わなかった」


文明崩壊の原因は、日本の研究所から研究段階のウイルス兵器が流出したことである。これも一般人には隠されているが、それなりの地位にある人間なら、誰もがよく知る話である。


その研究所では既に人体実験の段階にまで入っていたようだが、それがその姫なのだろう。


「それで、まあ色々と力を持っていた姫は、文明崩壊後の混乱を終息させ、ゾンビの中での絶対的権力を築くと同時に、人間とゾンビを完全に二分しました」


「なるほど。おおよそ我々の調べは正しかったようだ」


「それは良かったですね」


彼女のお陰で世界に平和がもたらされている、少なくとも種間の殲滅戦争が起こっていないのは確かだ。


だがそれは同時に、世界の動静は彼女の手中にあるということを意味する。6つに分かれた人類と比べ、屍人は完全に統一されているからだ。


ソビエト共和国はそれを嫌った。国力が比較的温存され、資源の自給自足も可能なソビエト共和国だけが、それを態度で表せたのだ。


「こちらの質問はそれでいいだろう。もう一つ聞く」


「はい」


「奴の弱みはあるか?」


「へえ、そんな汚い真似をするのですか」


「お前とて、姫への牽制の材料になるだろう。どうする」


正面から戦争を仕掛けても負けるだろう。ならば最高指導者の弱みを握ってしまおうと、正々堂々というものは欠片もない下衆な話だ。だが、クラミツハにとっても共和国にとっても利のある話だった。


「一つ、分かりやすい弱点があります」


「ほう」


「それは屍人の姫の親友です」


「し、親友?」


予想の斜め上をいく答えが返ってきた。今までの流れからして出てくるとは思えない単語が不意に飛び出してきたのだ。


「はい。そもそも、全世界を併合せず、姫が平和を望んでいるのは、その親友との平穏な暮らしを守る為です。彼女にとっては、その子こそが全てなのです」


「そして、その親友とやらを奪ってやれば……」


「まあ間違いなく下るでしょうね」


人間としては最低な行為だ。だが国益は全てに優先する。もしも屍人の姫を傀儡に出来れば、これ以上ない剣となる。


「そいつの居場所は?」


「それが、私にもわからないんですよね」


クラミツハは本気で残念そうな顔をして、ため息を吐いた。恐らく、それさえ知っていれば、誘拐やらも平気でやっていたのだろう。


「まあ、そんな弱みは、隠すか」


何ら不思議な話ではない。


「候補もないか」


「特には」


「なるほど」


どうやら捜索すべき範囲は地球の表面全てであるようだ。到底、無理な話である。この方策で屍人の姫を落とすのは諦める。


「他にはないのか?」


「特に知りませんね」


「そうか」


まあクラミツハも、そんな情報通という訳ではない。人類からすると情報の宝庫だが、屍人からすれば凡人程度のものなのだろう。


「ロコソフスキー閣下、失礼します」


「ああ。入れ」


上半身だけの女と精悍な男だけがいるという異様な空間に、勇敢な兵士は足を踏み入れる。


「このような電報が入っております」


「ほう。なになに……」


書いてあったのは、クラミツハと共和国軍の捕虜などを交換する手筈を整えよとのモスクワからの連絡であった。なるほど、クラミツハは確かに兵士数百人に匹敵する価値を持つ。


「では、私はこれで」


「ああ、ご苦労」


電報を持ってきた兵士は足早に去っていった。やはりこんな場所に長居はしたくないのだろう。同様の状況でそんなことを思うのは、まさにここの二人くらいなものだ。



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