クラミツハの取り扱い
昨日は投稿忘れてました。すみません。ですが恐らく今後もやる気がします。
崩壊暦215年3月10日08:32
あれから2日。
共和国軍の主力は現在、中央シベリアの要衝、クラスノヤルスクにまで後退した。
この世界の都合上、都市の数は面積におおよそ比例する訳だが、シベリアの都市の規模などお察しといったところで、まともに防衛を行うなら、ここまで下がるしかない。
日本軍には既にこの旨は通達しており、ここに至る全ての都市は非武装都市として、日本軍の軍政に服す。余計な人死にを出さない為の手筈だ。
人類の息も絶え絶えのこの世界、そういうところは暗黙の了解がある。まあ都市を核爆撃したりゾンビまみれにする国もあるそうだが。
さて、戦艦キエフの一室には、両手を厳重にくくりつけ拘束したクラミツハが横たわっている。足はない。というか下半身がない。
これをどう扱うか、共和国軍の悩みの種の一つである。
そんな彼女のもとを、ロコソフスキー少将は訪れた。
「具合はどうかな?」
「お陰さまで、良好ですよ」
「それは何より」
凄まじい器具が体中につけられているのだが、この様子なら大丈夫そうだ。
「その下半身は、治るのか?」
そんな突拍子もないことを問うのは、既にクラミツハの下半身が延びてきているからである。まるでトカゲの尻尾のように下半身が生えてきているのだ。
いや、トカゲですら尻尾の機能を完全には再生出来ないらしいが、こいつの場合、下半身を完全に回復しつつある。
「治ると思いますよ」
「やったことでもあるのか?」
「はい」
「は?本当、なのか?」
「はい。つい、200年くらい前に」
「……は?」
ロコソフスキー少将には何も理解出来なかった。ロシア語なのにロシア語ではない。そういう感じであった。そう言えば、こいつ、至った自然にロシア語を話している。
「まあ、ていうか、この世界を支配しているゾンビの皆さんのことをご存知ないのですか?」
「知ってはいるが?」
「彼ら基本的に不死ですよね?」
「ああ」
「私もその一員ですので、それだけです」
「まあ、そうか」
彼にも一応理解は出来た。ゾンビというのは不老にして極めて高い再生力を持っている訳で、それが何故か意識を保っているのがクラミツハという訳だ。
だがそれは容易に信じられるものではない。論理的には理解出来るが、心がそれを理解しない。
クラミツハよりもロコソフスキー少将の方が遥かに年上に見える。しかし実際は、クラミツハの方が5倍は長く生きているのだ。
「まあいい。私が来たのはそんな話をする為ではない」
「そうですか」
ロコソフスキー少将は、クラミツハの正体について理解するのを停止した。そんなものは時間の無駄だ。知りたいのはそこではない。
「白い髪の姫、世界の裏の支配者を、お前は知っているだろう?」
「ええ。勿論です」
屍人の姫、この世界の外交地図に必ず入る存在。しかしその存在は一般人はおろか政府高官の多くにも秘匿されている。それは、彼女の存在が知れ渡れば、世界が未曾有の恐慌に襲われるからでたる。
ロコソフスキー少将がそれについて知っているのは、全くの偶然に過ぎない。ジューコフ大将が選んだ数人の将官の中に彼が入っていただけだ。
「お前は、その姫と敵対しているのだろう?」
「おや、そこまで知れていましたか」
「そして、日本は姫と協力的だ。何故、お前は日本に味方した?」
クラミツハと姫は敵同士で、姫と日本が味方同士ならば、自ずとクラミツハは日本の敵になる筈である。それが何故か日本に味方している。
「特に理由は。私は傭兵に過ぎませんので、いいものをくれる方についただけです」
「なるほど。ならば、我が国につかないか?」
「何故?」
「我が国は姫と敵対している。お前にとっては敵の敵、つまり味方ではないか?」
「なるほど。あなたの国の知識も、その程度のようですね」
クラミツハは嘲るようにクスリと笑った。その様子は無気味ですらあった。
「何がおかしい」
「そうですね、まあ教えてあげましょう。日本もまた、姫と敵対しているのですよ」
「何?」
それは全くもって初耳の情報だった。日本と屍人の姫は蜜月関係にあると、実際に物証もあったのだ。
「表では、まあ俗世からしたら既に裏ですが、彼らは非常に協力的です。しかしその裏では、天皇はゾンビを利用して後は切り捨てようしており、姫は姫で、いつでも天皇を見限る準備をしています」
「本当か?」
「ええ。わざわざ嘘は言いませんよ」
まあ嘘を言わない理由など見当たらないが、一方で、わざわざこんな嘘を言う理由もない。まさか日本への憧憬の念がある訳でもなかろうし。




