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終末後記  作者: Takahiro
2-7_バイカル湖攻防戦
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そろそろ決着を

崩壊暦215年3月9日00:09


「そろそろ、決着をつけねばな」


鈴木大将は言う。


今の戦況は完全に持久戦のそれである。物量に勝る帝国軍は恐らく勝てるが、それではダメなのだ。より完全な勝利をもぎ取るか、或いは撤退した方がマシである。


まあこの東部戦線で勝利を勝ち取れなくとも、西部戦線で勝利すれば、この戦争には勝てる。東部戦線はこのままの状態を維持出来れば良く、今回の侵攻の目的は、根本的にそれにある。


少しでも前線を進めておけば、反撃されるにしても時間がよりかかるだろう。つまり、別に勝たなくても、問題はない。


貴重な戦力を失う方が帝国の破滅を招く。


だが勝てるのなら勝ちたい。もちろん戦力の損耗なく。なお、敵艦の鹵獲で戦力が回復するならば、それは問題ない。


「ここは一つ、湖上要塞を狙うというのはどうでしょうか」


森大佐は言う。


「それで敵の動きを見ると?」


「はい。まあ、あまり期待は出来ませんが」


その策は、北に避難している湖上要塞をあえて襲撃し、敵に動いてもらおうという策である。ソビエト軍が味方の救援を優先するなら、イルクーツクの防衛ラインから出てきて攻勢をかけてくるだろう。


だがそれが悪手であるというのは誰でも分かる。とは言えそれを指揮するのが人間である以上、全くもって期待出来ないもこともない。


「まあやってみよう。近衛第二艦隊を引き抜き、敵湖上要塞の追撃に回せ」


「近衛艦隊を、引き抜くのですか?」


と、叡子内親王は心底信じられない時のような声で問う。


「そうですが、何故です?」


「その、ここから精鋭部隊を引き抜くというのは危険かと」


確かに、激戦区のイルクーツク正面から中核部隊を引き抜くというのは危険かもしれない。現在の艦隊は、近衛艦隊を除いては寄せ集めだからである。


「それもそうですが、やはり湖上要塞の襲撃を精鋭に任せた方が、敵が動く公算が高くなるでしょう」


やはり湖上要塞に壊滅的な打撃を与えなければ敵は動かない。やるならば徹底的にだ。


「なるほど。では、そのようにして下さい」


「はい。そうしますよ」


鈴木大将は、内親王殿下の潔さに安堵する。軍隊的な序列には少し疎いようだが(それは結構な問題だが)、作戦指揮に迷惑がかからないようには配慮してくれていた。


さて第二艦隊は戦列を離脱、北に向かう。少なくともここでは動きはないようだ。


「第二艦隊、湖上要塞への砲撃可能です」


「よろしい。全艦砲撃開始せよ」


第二艦隊は湖上要塞に対し砲撃を開始。また湖上要塞側も反撃を始める。


第二艦隊の作戦としては、まず一基の要塞の一ヶ所に全ての砲撃を集中し、装甲に穴を開けた後、震洋を投入して制圧を図る。はっきり言って砲撃のみで湖上要塞を沈めるのは無理だが、これならば無力化出来る。


だがイルクーツクの方に動きはない。震洋を飛ばしても、うんともすんとも言わない。湖上要塞は見捨てる腹のようだ。


「湖上要塞攻撃は中止せよ。追って指示を出すまで、湖上要塞から離れ待機」


この策は失敗したが、良いこともある。一個艦隊を安全に前線から抽出出来たのだ。これを上手く使えば、一気に空中の戦況を変えられよう。


「そうだな、ここはやはり常道で行こう。第二艦隊、敵艦隊の背後に回れ」


4対4で釣り合っているところに、後ろから殴りかかる。挟み撃ちというのは古典的だが、それ故に常に有効である。


「敵艦隊、動き出します」


「ほう」


流石にこちらの狙いを察したようだ。どう動くかと暫しの観察。しかし敵は下がり始めた。


「下がるだと?」


それは予想外だった。下がれば、イルクーツクが射程に入る。イルクーツクに鉄の暴風を吹かせることも可能となる。


「砲撃を、継続しますか?」


「いや、一旦中止だ」


何故ならば、イルクーツクには帝国軍の将兵があるからである。彼らを砲撃してしまう公算は余りにも大きい。


「全地上部隊は、湖上要塞の中に待避せよ。重火器は放棄してよい」


「はっ」


戦車なども出したのだが、全て捨てる羽目になる。まあ仕方あるまい。


「全軍避難完了しました」


「よし。砲撃再開!」


その間、わずかに十分程度。イルクーツクを瓦礫の山とするのも厭わず、帝国軍は砲撃を再開する。また第二艦隊は後方に回り込んでいる。


「第二艦隊は距離を取って砲撃。こちら側も攻勢を仕掛けるぞ!」


ついに最後の戦いが始まった。

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