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終末後記  作者: Takahiro
2-7_バイカル湖攻防戦
516/720

戦端

さて、味方と敵との距離が近すぎるが故に、艦隊が砲撃を加えることは出来ない。但し、日本軍の動きは完全に監視しており、どこから来ようとも即座に前線に伝えられる体勢は整っている。


「やつらの動き、妙だと思わんか?」


ロコソフスキー少将は言う。


「私もそう思います」


クズネツォフ少将も言う。


何のとこかと言えば、敵が全く動かないのである。普通、上陸というのは、敵の守備隊を電撃的に攻撃し打ち破らるものだ。だが日本軍は、まるで何かを待っているかのように、港の辺りを彷徨くだけであった。


一応港を中心とした防衛線を張っているようだが、それはまるで立場が逆転したかのようで、奇妙である。


「ソビエツカヤ・ウクライーナ、大破!」


「何?不味いな……」


至って静的な地上とは異なり、空中は動的である。激しい砲撃戦が行われ、両軍とも本格的に損害を出しつつある。


この戦いには今のところ、戦術というものが見受けられない。両軍ただ平行に並び、正面の敵を狙い撃ちのみ。


そしてソビエツカヤ・ウクライーナというのは、国家人民陸軍第四艦隊が旗艦である。非常に運が悪く、殆ど行動不能の状態となってしまったのだ。


「第四艦隊の指揮はキエフに移せ。まあ何とかなるだろう」


そう、キエフは非常に忙しい。地上の指揮と空中の指揮を同時に行っているのだ。これはあまり宜しくない。


「一番要塞に新たな熱源反応!」


「今度は何だ?」


もっとも、それが何なのかの見当はつく。一番要塞で新たに熱源が出来たとすれば、それは例の輸送艦が動き出したしかないだろう。


破壊し尽くした訳ではなかったようだ。


「くっそ、ここで攻勢か」


地上への支援を考え出した、まさにそのタイミングで、日本飛行艦隊の攻勢だ。これは確実に何かを狙っているに違いない。


「前線を退くことは出来ない!全艦、その場で持ちこたえよ!」


これ以上下がれば、イルクーツクの戦場が日本軍の射程に入る。それは避けねばならない。


「キエフを前面に出す!シールドは全開にせよ!」


「閣下、全開は厳しいと思いますがね……」


マレンコフ大佐は言う。あまり全力を出しすぎると、キエフの機関が吹き飛ぶかもしれない。


「この数時間だけ持てばいいんだ。やってくれ」


「最悪、キエフごと大爆発しますが?」


「その時は、貴官が何とかせよ」


「はあ、そうですか。まあやりますよ」


シールドを全開にすれば、キエフの周囲、半径400m程度の砲弾は全て受け止めることが出来る。しかし当然核融合エンジンへの負担は大きい訳で、キエフがぶっ壊れる可能性は十分にある。


マレンコフ大佐は、半ばなげやりに、その実行を承諾した。但し、少しだけ出力を下げたのは秘密である。


「地上に動きあり!」


「今度は?」


「輸送艦です!」


「飛ぶか!」


その時、輸送艦が浮かび出した。まさかそこまで機能が生きているとは。


しかしその様子は、敵ながらにして哀れみを覚えそうなものだった。瀕死の人間が病床で吐く息のように、弱々しいエンジンの光を放って飛んでいる。


とても正常ではない。しかし飛んでいる。地上部隊にとっては余りにも巨大な脅威である。


「直ちに軌道上の部隊を待避させよ!」


その輸送艦は直線状に進むと見える。その進路上で轢かれるというのは、最悪の死に方だろう。


だが、予想に反し、僅か数十mを進んだところで、それは地上に落下した。


「戦車に装甲車、良いものを運んでやがる……」


輸送艦とは何かを運ぶ為の艦である。当然ながらその中には多くの兵器が積んである。それはかなりの規模の機甲部隊が出てきた。


「全軍に、対装甲戦の用意をさせよ」


携帯ロケット砲等々の対戦車兵器は十分に配備してある。市街戦ともなれば、戦車とて絶対的な優位を持つものではない。


「キエフは、右翼に移動せよ」


今度は空中の指揮だ。押され気味の右翼を支えねばならない。しかしこの調子だと、戦線は維持できなさそうと見える。


「やはり地上の指揮は誰かに任せねば」


「ジューコフ大将に任せればどうですか?」


「だが、流石に上官を使いすぎじゃないか?」


「まったく、今はそんなとこを考えている場合じゃないでしょう。軍の序列より勝つ方が優先です。早く話をつけて下さい」


「わかったよ」


クズネツォフ少将に押され、ロコソフスキー少将は再びジューコフ大将に通信をかける。


まあジューコフ大将が断ることはなく、クズネツォフ少将の言うようになった。


これでロコソフスキー少将は空中の指揮に専念出来る訳だ。だが、状況は依然として悪い。どちらかで負ければ、それは全体での負けを意味する。


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