一番要塞の衝撃
「不味いな……」
クズネツォフ少将は呟いた。そして現在の戦況を眺める。そして考える。一番要塞が奪われるという最悪の事態を回避するには、如何にすべきか。
「閣下!また違う艦がこちらに!」
「ああ。これで狙いは明らかとなった」
敵の目的が一番要塞の奪取にあることは明らかとなった。
後はどうするかだ。敵の動きが読めても、対応が打ち出せなければ意味がない。
「わかった。全艦に、一番要塞にへばりついている敵艦を砲撃するように命じよ。湖上要塞もだ」
「か、閣下?それでは、一番要塞に確実に当たりますよ?」
「構わない。湖上要塞の装甲ならば、機関部までやられることはないだろう。直ちに始めよ」
「はっ」
自分ごと撃てというやつを、己で実践することになろうとは、誰も思いはしなかった。
とは言え、それは敵を道連れにしようという趣旨ではない。自分は地獄の縁に立って、敵を深淵に突き落とそうというそれである。
「閣下、友軍の砲撃、来ます」
「それでいい。まずは、衝撃に備えよ」
今度は小さな揺れが断続的に続く。湖上要塞の方が体積が圧倒的に大きいから、こちらに砲弾が当たるのは仕方がないことだ。
そして、敵の戦艦の方は、舷側をモロに撃たれ、急速に傾
向いている。これは、沈めた。
「こちらの被害は?」
「装甲が少々へこんだ程度です。継戦能力に問題はありません」
「よし。やはり要塞の防御力は天下一だな」
敵の戦艦の装甲は破壊し尽くした砲弾だが、湖上要塞の装甲には歯が立たないようだ。もっとも、共和国艦隊の砲の威力もその程度、と示したとも言えるが。
しかし問題はもう一隻の方である。今の様子を見て、一番要塞の反対側に陣取ろうとしているように見える。妥当な判断だ。
「どうされますか?」
「そうだな……敵が要塞の装甲を破り始めたタイミングで、一気に要塞を回転させ、砲撃に晒す。準備をしておけ」
「了解です」
要塞の装甲を破るには、事前に機材を用意していても、十分以上は同じ場所に留まらないといけない。であるから、要塞を回転させれば、その面から離れられない敵艦は、処刑場に送り込まれるという訳だ。
「閣下!またもう一隻来ます!」
「またか?くそっ」
共和国艦隊が弱すぎる。艦一隻一隻の能力もそうだが、何より、前線を死守するという気合いが足りない。このままでは一番要塞の陥落は時間の問題だ。
しかし、こればかりは、どうしようもないのだ。
「第二戦隊を一番要塞の近くまで移動させよ。一番要塞に張り付いている敵を無理やり払わせる」
「了解です」
一番要塞に張り付いているのに特攻を仕掛けるというのも、なかなか良い手だろう。兎に角、侵入さえ阻止してしまえばいいのだ。しかし、それは同時に前線に穴が出来るということも意味する。
案の定、そこから防衛線を抜いてきたものがある。しかしそれも想定内である。
「閣下、敵艦、突っ込んで来ます!」
「よし。まだ、少し、待て」
ここは敢えて何もしない。その間、また別の敵艦が迫ってきている。
「敵、装甲の破壊に取り掛かりました!」
「今だ!180°回転!」
全てのエンジンが一斉に最大出力となった。そして、幾多の波を打ち砕き、大回転が始まった。
敵艦はこちらに動きを合わしている。狙い通りだ。
そのまま味方艦の視界に敵艦を晒そうとする。だが、今度は別の敵艦が後方に回ってくる。一番要塞を前後から挟む形だ。そして、次の敵も向かってきている。
「全艦、まずはそこにくっついている奴を沈めよ!」
大抵の艦は命令を遂行する余裕はなかったが、特に湖上要塞が良く砲撃をした。先程の場合よりも火力は弱まってしまったが、それでもなお、一隻の船に対しては十分過ぎる火力だった。
その艦はすぐに湖の藻屑と化した。
だが問題が起こる。
「背面装甲の損傷が重大です!既に修理を必要とする段階です!」
「ああ、そうなってしまうか。不味いな」
これまでは、味方の砲撃を食らっても問題はなかった。だが、日本軍によって傷つけられた装甲を撃たれると、想定外の被害が発生してしまった。
この手法も、長くは持たない。
「まずは反対に張り付いている奴を、同様に沈めよ。次に接近する奴は、第二戦隊に沈めさせる」
またもエンジンが唸る。そしてまた一回転を行った。同じような装甲の損傷を得た。
「敵艦、また突撃してきます」
「よし。第二戦隊、直ちにこれに突撃し、兎に角、一番要塞に近寄らせるな」
そして第二戦隊は動き出す。事前に偽装のため攻撃していたのを止め、敵艦が張り付いたところを見計らい、全速力で突撃を始める。
そして激突した。お互いに装甲が破壊される。しかし、日本軍の艦艇の方は、同じ場所で耐え抜いている。
「動かないのか!?」
「はい!動じていません!」
「まだだ。何回でも突撃し、いや、2隻で同時に特攻せよ!」
そして、最後は何とか敵艦の撃退に成功し、その後の集中砲火によって、撃沈した。
しかし、装甲は更に破られた。




