空挺投下
紆余曲折を経て、概ね内親王殿下の作戦で征くこととなった。
「全艦、準備万端です」
「よーし。全艦、作戦開始!」
まずは作戦の第一段階、艦隊をバイカル湖に投下せねばならない。
正面はキエフが待ち構えており、実行は困難と言える。しかし側面では戦力で優っており、そこに水上戦力を集中、投下する。
またそれを偽装する為、鈴木大将の近衛第一艦隊自身も積極的な攻撃を仕掛ける。
「第一艦隊、キエフは無視だ!後ろの艦隊を狙え!」
キエフを撃っても砲弾の無駄である。第一艦隊は限界まで前進し、キエフの背後の艦隊を射程に収め、砲撃を開始した。
「敵、ミサイル攻撃、砲撃を始めました」
「問題ない。兎に角敵を引き付けよ」
正面同士においては戦力は拮抗している。両軍とも互角の勝負だ。だが、射程の限界でな撃ち合いということで、命中率は低い。
また、キエフの攻撃もさしたる脅威とはなっていない。最初の遭遇戦の時こそ衝撃は大きかったが、撃破を諦めてみると大したものではないのである。
攻撃に鉄を使えない以上、その火力は一段劣らざるを得ないだろう。
「キエフ、動き出しました!」
「ほう、どう来るんだ」
キエフのエンジンが出力を増し始めた。と同時に、帝国艦隊に向かって急速に突撃してきた。
「窮余の策だな。予定通り、暁と霞に迎撃作戦を伝達せよ」
攻撃が一切効かない化け物が迫っているというのに、艦橋は落ち着いていた。帝国軍の作戦は、駆逐艦を以てキエフを特攻を仕掛け、足止め若しくは撃沈を図るというものである。
やはり、人が作ったものならば、それに対抗する手段は必ずあるのだ。
しかしキエフは予想外の動きを見せ始める。それは艦隊に突撃することなく、その外側を迂回するような軌道を取った。
「ちっ、面倒なことをする。暁と霞以外は、ミサイル迎撃以外、無視だ。何ら特別な脅威となることはない」
キエフも所詮は五月蝿い虫のようなもの。無視に徹すれば何も問題はないのだ。
「閣下、宜しいですか?」
内親王殿下は言う。
「何でしょうか?」
「はい。キエフの狙いは、この和泉だと思います。本艦の防御を固めるべきかと」
「確かに、そうとも考えられますな」
戦艦和泉は、艦隊中央より少し後方に下がったところから指揮をしている。確かに、艦隊の後ろから突入した方が、和泉に到達出来る可能性は高い。
「ならば、ちょっとした嫌がらせをしましょう。駆逐艦全艦、我を中心に、後ろを守るよう、弧状に陣を敷け」
残りの駆逐艦全てを動員し、和泉を守る壁を作る。これでキエフに背後から殴られる心配はない。
またその間も、暁と霞はキエフを追っている。
「キエフ、減速しています」
「かわいそうに、図星だったのかな」
「そのようです」
減速したキエフは船首を反転させ、今度は反対方向に加速していった。
狙いを見破られ悔しがっている様子が目に浮かぶ。そう思うと、キエフの姿すら哀れに見えてくる。
キエフは結局敵艦隊の中に戻っていった。
正面の戦闘で動きは生まれそうもない。ただ機械的な砲撃が続けられた。
「第二艦隊、湖上に到達、いつでも投下を開始出来ます」
「わかった。少し待てよ」
大きな問題がない限り、側面の指揮は任せっぱなしだった訳だが、問題なくいったらしい。やはり2倍という戦力差は大きい。
「しかし、敵の中央の艦隊が動かんな」
「不気味ですね」
戦闘が始まってこの方、イルクーツクの真上に控える1個艦隊が微動だにしない。これが帝国軍の動きを消極的にしているのだ。
それは現存艦隊主義の縮小コピーなのか、或いは他に狙いがあるのか、その判断は出来なかった。
「こう迷っている時間こそ、敵の真の狙いだろう。よって、即座に投下作戦を開始せよ!」
それは賭けではあった。
敵の行動の一歩先を行くことによって主導権を握るという、何かの拍子に簡単に崩れ去る作戦だった。
しかし鈴木大将は躊躇うことの方をより嫌った。




