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終末後記  作者: Takahiro
2-7_バイカル湖攻防戦
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悪い報告

崩壊暦215年3月8日17:19


戦局は一向に変化を見ない。そして、いくら時間が経とうと、キエフは攻撃を続けていた。


「まさか、失敗したのか」


「そうかもしれませんね」


「そうすると……まあいい。待とう」


キエフの制圧が完了していないのは明らかであるが、それが失敗したという証拠もない。取り敢えず、何らかの報告があるまでは現状維持に努めるしかない。


「閣下、我が軍のものと思われる戦闘機が、接近しています」


「思われる?」


「はい。機体は帝国の七式ですが、通信が出来ません」


どこからともなく現れた不明機。それも敵の方からやって来たという。もっとも、鈴木大将はその正体に検討がついている。


「恐らくは、あの二人の機体だ。どこか適当な空母を空けておけ。但し、念のため、対空警戒は怠らないように」


「はっ」


空母加賀の飛行甲板にスペースを設け、そこに誘導することとされた。しかしそもそも通信が通じないときた。


「誘導はどうします?」


「適当に誘導機を出せ。それに誘導させよ」


最終的にはこちらも戦闘攻撃機を出して誘導することとなった。対空砲が総じて向けられる中、2機は接近して飛び、加賀のもとにまでたどり着く。そして不明機の方は無事に着陸した。


「で、誰が乗っているんだ?」


「ネサクだけです」


「なに?一人か」


一人だけというのは意外だった。また同時に、嫌な予感もしてきた。


「大将閣下と話したいとのことですが」


「ああ。すぐにここまで連れてこい」


そして、ヘリコプターに乗って、ネサクはやって来た。表情は鬼面のせいで見えないが、いつもより静かである。


「簡単に言うと、キエフの制圧に失敗した。こればかりは、申し訳ない」


「くっ。やはりそうでしたか」


悪い報せだ。やはり失敗していた。キエフは未だに帝国軍に立ち塞がっている。


「その、クラミツハさんは、どうされたのですか?」


叡子内親王殿下は尋ねた。彼女の姿はどこにも見えない。


「奴は、死んだか、それか捕まった」


「え、何ということ……」


「まあ内親王様、あいつもいつでも死ぬ覚悟だったんだ。気にするな」


「は、はい……」


そうとは言われても、内親王殿下の悲しみが癒えることはなかった。しかし、たかが兵士一人の死を嘆いていてはいけないというのは、軍人なら誰もが理解するところ。前を向かねばならない。


「そうそう、キエフには、ロコソフスキーとかいうヤバい奴がある。そいつを殺さないと、厳しいぞ」


「なるほど。他には?」


「いいや、特には。じゃ、震洋を使う時になったら、呼んでくれ」


「そうしましょう」


「じゃあな」


ネサクは静かに去った。


さて、兎も角、事実として、キエフに関する諸事情は一切の改善を見ていない。また、震洋をもってしての打破も不可能と見える。


よって、次なる作戦を考えねばならない。


「さて、作戦会議といこうか。この状況、どうする?」


鈴木大将は艦橋の士官に問いかけた。


まず答えたのは内親王殿下。


「艦隊決戦での勝利は厳しいものと考えます。そこで、イルクーツクの占領を第一の目標にするのはどうでしょうか」


「もう少し詳しく願えますか?」


「はい。ただ、そこまで深い考えでもないですが。ええ、私が思うに、現在我々が擁している水上艦隊を全て投入し、敵飛行艦隊を無視してイルクーツクに接岸、兵力を送り込んでそこを占領すれば、敵も自ずと撤退するの思います」


「なるほど。一考の価値あり、といったところですな」


「ありがとうございます!」


現状の飛行戦力を比較すると、敵4に対し帝国5である。しかし敵にはキエフがある。戦力は殆ど互角と言っていい。


艦隊決戦も考えられるが、米ソ連合に生産力で著しく劣る帝国としとは、少しでも艦の損耗を避けたい。


そこで、まあ消耗してもいい水上艦隊を使おうというのがまず一番の理由である。


そして、イルクーツクを占領してしまえば、敵は物資が不足し、いずれ撤退を余儀なくされるだろう。


しかしこの作戦には課題が多い。


「殿下は、敵の水上艦隊について、把握しておられますか?」


森大佐は鋭く問いかけた。


「ええ、湖上要塞が6つと、水上艦隊ですよね」


「確かに、それは間違ってはいませんが、問題は水上艦隊の方です」


「それは……」


内親王殿下には返す言葉がなかった。敵の水上艦隊の方については、完全に軽視していたのだ。

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