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終末後記  作者: Takahiro
2-7_バイカル湖攻防戦
499/720

キエフ防衛戦Ⅱ

そしてその時は唐突に訪れる。


短い爆音と、崩れ落ちる鉄の音。爆煙によって視界が妨げられる。


しかしその奥から力強く床を蹴る金属音が聞こえた。同時にロコソフスキー少将の目の前に黒い影が迫った。それは凄まじい勢いで飛び掛かる。


「来たな!」


ロコソフスキー少将はハルバードを横に一閃、煙から飛び出した銃口を薙ぎ払った。


相手は僅かに怯み後退する。しかしその刹那、再びロコソフスキー少将を貫こうと飛び込む。


しかしそれも再び弾かれる。それが何度も繰り返された。その圧倒的な技量同士の戦いに、他の兵士は手出しも出来なかった。


だが、やがてその応酬は終わりを迎える。よく見るとヘルメットすら被らない舐めた格好をした敵は、静かに少将を見据えた。


それは小銃を装備し、腰には刀を引っ提げている。


「あなた、なかなかのやり手ですね」


「どうも」


小銃とハルバードが向き合う姿は、この時代の戦闘とは思えない代物だ。どちらかが時空を越えてきたように見える。


「貴様が、ソビエツキー・ソユーズを沈めたクラミツハだな?」


「はい。その通りです。ちなみに、あなたのお名前は?」


「ミハイル・ロコソフスキー少将だ」


「ミハイルとはまた、あなたにお似合いの名だ」


「そりゃどうも」


こうして軽口を叩く間も、二人に警戒を緩めることは一切ない。


「しかし、ロコソフスキー少将、あなたはやはり戦いが上手なのですね。この距離でも、恐らくその服を貫くのは不可能です」


「これまでちゃんと訓練を重ねてきたのでな」


それは二人が殆ど同じ角度で体を傾けながら向き合っていることについての話だ。同じ装甲をでも、例えばそれを45°に傾ければ、敵からみた装甲厚は本来の1.4倍になる。


そして、つかの間の会話が途切れた時、それが戦闘再開の合図である。


「総員、撃て!」


それは後ろに控える兵士達への号令である。唖然としていた彼らも正気を取り戻す。


「小銃弾など無駄ですよ」


「それはどうかな?」


「何をするおつもりで、って、あ」


確かにクラミツハの機動装甲服を貫いた弾丸はない。しかし彼女の銃は、所詮はそこらの工場で作られた物である。撃てば壊れる。


「そこだ!」


「くっ、せこいですよ」


ロコソフスキー少将は銃を失ったクラミツハに逆襲を仕掛ける。しかしクラミツハも冷静に、その銃の残骸で応戦する。


今度こそ中世に逆戻りしたような原始的な戦闘が始まった。


「ですが、双方、決め手に、かけますね」


「確かにな!」


ハルバードは何度もクラミツハの機動装甲服を打っている。しかし、銃弾を余裕で弾くその装甲に、ハルバードが敵う訳もない。しかしクラミツハも銃を失っており、どちらも互いの機動装甲服を砕く術を持たないのである。


クラミツハはじりじりと後退し、ロコソフスキー少将は追う。


しかしその時、廊下が交差する辺りで、数体の屍人が飛び出してきた。


「なに!?」


「ふう、ナイスタイミングですよ」


ロコソフスキー少将は直ちに屍人を狩り始める。ハルバードは屍人の体を斬り、刺し、払った。全て処理するにかかった時間は30秒程度のもの。


しかしクラミツハにとっては十分過ぎる時間である。この間、彼女は腰の刀を抜き、体勢を完全に整えていた。


「ほう、日本刀か」


「ええ。そこそこ良い刀ですよ」


その時、クラミツハはふと後ろに振り返った。何故ならば、更なる兵士が後ろから訪れたからである。


「さっきから、騎士道誠心精神に悖ることしかしませんね」


「我々は勝てばいいんだ。だいたい、貴様に言えたことではないだろう」


「確かに。では」


「!…待て!」


クラミツハは後から来た方の兵士の群れに襲いかかった。まず一人、機動装甲服の僅かな隙間を貫かれ、倒れた。


「ほら、簡単でしょう?」


「くそっ!総員、()()を今すぐやれ!」


「ん?何です?」


死体から刀を抜きながら、クラミツハは言った。


だがその瞬間、鎖のようなものが彼女の腕に引っ掛かった。


「まったく、原始的な策を」


クラミツハはそれを投げた兵士を殺そうと歩み出す。しかし今度はその反対側から鎖が飛んできた。


「何?面倒な」


クラミツハは鎖を無理やり切断した。しかし、また次の鎖が飛んでくる。


「どうだ?」


「流石に、淑女にすることじゃないと思いますがね」


「貴様に遠慮などしてられん。すまんな」


戦局は完全にロコソフスキー少将のもとに移った。今までの恨みも込めて、彼は嘲るように憐れなクラミツハを見た。

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