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終末後記  作者: Takahiro
2-7_バイカル湖攻防戦
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キエフⅣ

ネサクは取り敢えず敵が出てきそうなハッチの辺りに張り、敵の来襲に備える。しかしその前に心強い増援が現れる。


「残りは2か。まあ十分だ」


残りは全て落ちたが、残った2機の震洋がキエフの甲板に突入した。ついでとばかりにミサイルランチャーを破壊しながら。


「そこのはこっちだ!そこのはそっち!」


ネサクが叫ぶと、何の思考も見えない屍人はしかしその通りに動きだし、クラミツハを防衛する体勢に入る。


たどり着いた屍人は計百と少しである。艦内での戦闘においては、いないよりは遥かにましだが、いても大したことは出来ないだろう。しかし今は必要だ。


もともとはクラミツハとネサクだけで制圧する予定で、それならば屍人など必要ないのだが、クラミツハが想定外のところで負傷したことで、殆ど不可欠の役割を担っているという訳だ。


ある程度の警戒線を構築し終えたとこらで、ネサクは再びクラミツハのもとへと歩み寄る。


「どのくらいで治りそうだ?」


「完治までは、数時間はかかりそうです。ですが、だいぶ体を動かせるようになりましたよ」


そう言うとクラミツハはすんなりと立ち上がった。問題ないではないかと思われたが、よくよく見てみると、どこかぎこちない歩き方をしている。


それはダメだとネサクは引き止める。そんなのでは戦闘にならないと。


「しかし、そうなると、もう詰みですが」


「機動装甲服を着れば、何とかなるか?」


「はい。殆ど問題ないでしょう」


機動装甲服の「機動」という側面は、傷病者をも前線に送り込める可能性を秘めている。機械的に、僅かな動きを大きく強い動きに変換出来る。


設定を弄れば、殆ど足が動かないような人間でも簡単に歩けるようになるのだ。クラミツハなら、これで十分だろう。


「だが、ここで機動装甲服を開くのは不味いんだろ?」


「ええ。敵の磁石が向かない艦内に入る必要があります」


「なら、さっさと突入しよう」


「そうですね。お願いします」


作戦は決定した。


ネサクは爆薬をハッチに取り付ける。そして少し離れるとそれを起爆する。艦内へと続く穴が空いた。


「よし、お前ら、進め!」


ネサクが叫ぶと、蠢く屍人はぞろぞろと艦内に侵入していった。暫くの時間稼ぎの為である。


「じゃあ、行くぞ」


「はい」


二人は走り、荷物を投げ入れ、自らも穴の中に飛び込んだ。中に敵の気配はない。ただただ屍人の低い呻き声が木霊しているだけである。


「少し離れろ」


二人の周囲から屍人が離れていく。二人は円上の結界にでも守られているような格好となった。


「着るんだろ、これ」


ネサクは機動装甲服を投げた。因みに彼はそれを着る気はない。彼はどちらかと言うと指揮官か後方支援タイプなのだ。バーサーカーはクラミツハだけでいい。


「はい。どうも」


まずは軍服を脱ぎ、機動装甲服の各部を装着していく。機動装甲服は、服とは名がついているが、服のように一枚に繋がったものではなく、各部の装甲を順次着けていく形をとる。


「ちょっと、手伝ってくれますか?」


「いいが、何だ?」


「脚の方の服をです」


「お、おう」


確かに、背中を負傷しているクラミツハにしてみると、体を曲げて脚の方に手を伸ばすのは辛いのかもしれない。ネサクは素直に従う。


「なあ、やり方がわからん」


「ああ……まあ、教えますから」


「頼んだ」


機動装甲服などここ最近全く着ていないネサクにとって、この作業は難易度が高過ぎた。


膝の上と下に装甲を巻き付けるのうに装着し、その間を機械化間接で繋ぐ。そして最後は腰の方の装甲に接続する。


「際どいんだが」


「そんなこと気にしないでしょう?」


「まあな」


そうして作業は完了した。銃を持てばいつものクラミツハの復活である。また、機動装甲服があれば普通に歩けるし走れるようだ。


「さて、目標は艦橋です。どうします?」


「俺が屍人を艦内のあちこちに拡散させて、その間にお前が艦橋を制圧する、でいいか?」


「はい。それでいきましょう。では」


クラミツハは歩き出す。そしてネサクも屍人を繰る。


やはりキエフにも隔壁は沢山あり、それらを片っ端から破壊せねばならない。


クラミツハは爆薬を適宜設置していく。隔壁とて、もともとは戦闘用ではなく、すぐに砕ける。


他方、屍人の方ではそんな器用な真似はしない。屍人に持たせたハンマーで殴る。兎に角殴り付け、強引に倒壊させる。それがネサクのやり方だ。


一枚を破壊して、まず、敵はいなかった。しかし妙だ。人間の気配がなさ過ぎる。まるでキエフが幽霊船であるかのようだ。


しかし、それはそれで構わない。どの道、これを制圧する手段はある。


その後、クラミツハは、その様子に構うことなくひたすら前進し、艦橋を目指した。その間もキエフは動き続けている。

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