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終末後記  作者: Takahiro
2-7_バイカル湖攻防戦
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キエフⅢ

クリスマスに若干ロマンスっぽい展開を挟んでいくスタイル。

さて例の二人は出撃の準備に移る中、地上に送り込んだ部隊からの通信が届いた。


「様子はどうだ?」


「はっ。我が軍の銃弾が混じっていない残骸を20程調べましたところ、磁石に反応したものは、一つもありませんでした」


「よくやった。では、直ちに帰還してくれ」


「はっ。くっ……」


彼は最後に引き金を引きながら通信を切った。タイミング悪く屍人が襲いかかってきたようだ。だが、心配には及ばない。正規軍の武力の前に、たかが生ける死体など無力だ。


もっとも、実際のところはともかく、地上はどこも地獄のようである。誰も長居はしたくない。とっとと撤退するのが吉だ。


「更なる傍証が増えたな」


「それに、敵の技術がそこまでのものではないと証明されました」


これで敵のミサイルが磁石につくとなると、敵は極めて正確に磁力線を操る高度な技術を保有しているということになる。


だが実際はスイッチのオンとオフしか切り替えられないようで、作戦には支障ない。


「閣下、クラミツハより、準備が完了したとの報告が」


「こちらも問題ない。いつでも作戦を開始してくれと伝えてくれ」


「はっ」


そのメッセージが送られるや否や、後方の震洋が20機ばかり、後方の空母から飛び立った。もちろん、それらは全てキエフを目指し一直線に飛んでいく。


「敵、迎撃を始めます!」


「震洋を援護せよ」


敵は当然震洋を撃ち落とそうと試み、対艦ミサイルを乱発している。それに対し帝国軍は、そのミサイルを撃ち落とす為にミサイルを放つ。


今のところ2機が落ちた。しかし残りは健在である。当然、クラミツハとネサクが乗る機体も。


「そろそろです。準備は出来ていますか?」


クラミツハはネサクに問う。


「ああ。何とかなるだろう」


「もっとも、私もやっとことないんですがね」


「何だ、そうなのか」


彼らは今回、震洋からのちょっとした空挺戦術でキエフへと着地する予定だ。パラシュートで降下する訳だが、二人とも実戦で使ったことはなかった。


これをする理由は、震洋が撃墜される可能性が大と判断されたからである。震洋は砲弾同様に敵の磁力バリアに阻まれ、その間に落とされる(撃たれて破壊されるか、艦の上から払われる)だろう。


それを避けるべく、キエフの上空に陣取った時点で降下してしまおうというのである。つまり、二人の乗ったもの以外の震洋は囮にも等しい。


まあ二人の震洋が偶然にも狙われると作戦が詰む訳だが、確率論的にはいけるだろうということで、こうすることとなった。


「おお、やはり、すごい速度で減速していますね」


「ほう、これがキエフの力か」


キエフに近付いた途端、何かが進路を阻んでいるかのように震洋が減速し始める。それも急激な減速であって、既に止まりそうである。


「じゃあ、ここらで飛べばいいんだよな」


「はい。行きましょう。ですがまずは荷物からです」


「おっと、忘れてた」


二人はまず例の消磁鞄を落とした。このくらいの高さなら、何も着けずに落としても問題ない。そして次は二人の番だ。


「では」


「ああ。行くぞ」


高さはおよそ100m、二人は飛んだ。そして僅かに自由落下した後、バラシュートを開いた。


「早すぎはしないか!?」


ネサクは叫ぶ。確かに、言われてみれば、こうしてゆらゆらと飛んでいる間は敵の格好の的かもしれない。


「ああ。失敗しましたね!」


「だろう!?」


「ですが、って、あ」


ネサクの心配は直ちに現実のものとなった。クラミツハのパラシュートが何十箇所も見事に撃ち抜かれ、そのままの勢いで落ちていく。


「おい!!」


流石のクラミツハも、ここで返事をする余裕はなかった。


どんどんと体が加速していく。何とかして体勢を立て直そうと試みるも、変な方向に体が回るだけである。


おまけに下は鋼鉄の装甲で、自身は普通の軍服を着ているだけなのである。最悪、死ぬ。


「ああ、これは不味い」


気付けばクラミツハは頭から落下しようとしていた。これは本当に不味い。


しかし天はクラミツハを見放してはいなかった。彼女が必死に掴むパラシュートの残骸が、奇跡的に風を捉えたのだ。


何とか頭から落下する事態は避けれた。だが、結果、背中から落ちた。


「ぐあっ、うっ、はあはぁ……」


背骨が折れたのか、鈍い音がした。また肺への衝撃で息が出来なくなる。全身が機能不全に陥った。


暫くして、パラシュートは穴だらけだが、こちらは無事にネサクが降りてきた。


「おい!クラミツハ、大丈夫か!?」


彼にしては珍しく、心の底から心配する声であった。


「大丈夫に、見えますか……?」


「いや、見えん」


「まあ生きてはいます。少し待ってくれれば、回復しますよ」


「わかった。時間稼ぎをしておく」


どの道、医学の知識の皆無なネサクに出来ることはない。心配して側に付き添ったところで何も起こらない。


ならば、彼に出来ることは、手負いの彼女を守ることであった。

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