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終末後記  作者: Takahiro
2-7_バイカル湖攻防戦
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キエフⅡ

だがその前にすることがある。あの兵器の原理を理解しなければ、迂闊に手出しは出来ない。鈴木大将は史料の検索を急がせる。


「閣下、敵艦、ミサイルを放ちました!」


「想定外だな。まあいい。数は少ない。迎撃せよ」


飛んできたミサイルは簡単に撃墜出来た。しかし、それが問題なのではない。


「敵は魔法のごとく止める砲弾を選別できるのか?」


「何らかの特殊なミサイルを使っているという可能性は、どうでしょうか?」


内親王殿下は言う。それもまた、考えられる二つの可能性の片方である。


因みに、あのバリア的な何かを瞬時に開閉しているのではという主張は、こちらのミサイルが止めらると同時に敵がミサイルを放ったことで、否定された。


「これは、検証する必要がありますね」


「ああ。やはり、()()を確認するか」


この世に魔法は存在しない。そして、古典物理の範囲において、何にも触れずに相手に力を及ぼせる力は、重力と磁力しかない。


重力は作り得ないから、そうなると、あの力の正体は磁力しか考えられないのだ。


「まず、地上に速やかに部隊を送り、撃墜したミサイルの破片に鉄かニッケルが含まれているか、つまり磁石につくかを調べさせよ」


これでミサイルが磁石につかない場合、敵は特殊なミサイルを使用しているということになる。


「また、本当に磁性を利用したものなのかを確認する為、炸裂弾をもう一度放ち、爆炎の飛び散り方を解析せよ」


念のため、万が一に備えてのことだが、磁石にはつかない物質である火薬の残りカスの挙動を調べる。もしもこれすら引き寄せられるのなら、あの艦の中に魔法使いでもいるので諦めよう。


「閣下、爆炎の挙動は、完全に風以外の干渉を受けていません」


「よし。まずは一安心だ」


これであの艦の正体がデカい磁石であると判明した。とその時、加えて吉報が入る。


「閣下!220年前の史料から、あの兵器と極めて類似した兵器が見つかりました!」


「モニターに映せ」


そして映し出された3Dモデルは、まさの件の敵艦そのものであった。やはりこれは旧文明の遺産なのだ。


「艦名は、キエフ、です。以下のような特徴を持って、対米戦の反撃作戦の為、建造されたと」


情報が凄まじい速度で並んでいく。だがその中に気になるものがあった。それが鍵を握ると、鈴木大将は直感する。


「キエフは装甲の中に強力な電磁石を86個備えており、それによって、艦内に磁場の影響が及ぶことはない、とあるな」


「なるほど。これなら、一度艦内に入れば影響は受けないのですね」


「恐らくは。これで希望も見えてきました」


場合によっては、震洋すら無効化される危険性があった。もしも艦内に磁場を発生させられるなら、小銃や刀剣、機動装甲服すら無力化されてしまうからだ。


磁石に吸い寄せられない銃も、作れないことはないが、少なくとも和泉には不可能だった。


だが状況は鈴木大将に味方している。震洋でキエフに侵入すれば、勝てる。


「ですが、装甲化した屍人は使えませんね」


森大佐は言う。確かにそうだ。屍人の体に鉄板を打ち付け銃を括り付けたあのおぞましい兵器は使えない。ただの生身の屍人を送り込むしかあるまい。


「ああ。だったら、選択肢は一つしかない」


「あのお二人のやってもらうのですか?」


「はい。ネサクとクラミツハ、あの二人なら、やってくれるでしょう」


恐らく、最も確実な手段。一人で一隻の戦艦を奪い取るクラミツハとネサクに頼み込むのがそれである。


直ちに二人は艦橋に呼び出された。鈴木大将はことの次第を全て話した。


「なるほど。わかりました。引き受けましょう」


「ああ、俺もだ」


「ありがとうございます」


二人は何ら躊躇うことなく同意した。何も、敵に接近するまでが少しばかり面倒なだけで、中ですることはいつも通りの仕事だからである。


因みにネサクはその鬼面を取らなくてもいいと喜んでいた。彼の鬼面に鉄は含まれていない。


「敵艦に乗り込む時は、この消磁鞄に武器一式を入れ、侵入して下さい」


「これまた面白いものを作りますね」


「どうも」


それは大して重要ではない機器を片っ端から解体し作り上げた、周囲の磁力を遮断する鞄である。もっとも、それは到底鞄と呼べる見た目ではなく、鉄の箱であった。


「しかし、もしも艦内にすぐに敵がいた場合、私たちは生身で戦う羽目になるのですが、そこらはどうお考えで?」


「あなた方なら、何とか出来ると思いまして」


実はそれも二人を読んだ理由である。不死身みたいなものである二人なら何とかなるだろうと。


「大将閣下、今、こいつなら撃たれても治るし問題ないとか思いましたよね?」


「ま、まさか……」


「まあいいですよ。私も、こういう狂った殺し合いがしたかったところですので」


素っ気ない顔でとんでもないことを言う彼女に、鈴木大将は恐怖を覚えた。


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